32

二学期は本格的に受験に向けての準備が始まる。私も例外ではなく両親と進路の話をすることが増えた。と言っても大体が「同じクラスの子が○○高校目指すんだって〜」とかそんな程度の話だが、有り難いことにうちの両親はどちらも別段厳しいわけではないので、勉強を強いてきたり進学校に行かせようなどとは一切考えていないようだった。いつも「名前の好きなようにしなさい」と言ってくれる。本当にいい両親だ。そんなんだからか、私は未だに受験先が決まっていない。なのに焦りの一つも感じないとはどうかしている。


「さつきはどこの高校受験するか決めた?」


学校帰り、マジバにて。注文したバニラシェイクをずずずーっと吸ってさつきに尋ねる。バニラシェイクは影の薄い少年を彷彿させる。バスケ部から姿を消した彼、黒子くん。クラスも離れてしまったので今彼がどうしているのか知っている人はひとりもいない。連絡も、何故だが取れずにいた。さつきはストローを指先で弄りながら困ったように笑う。この笑みは十中八九彼女の幼馴染みが関係している時のものだ。それだけでさつきがどこを選んだのかが分かった。幼馴染みのことになるとどこまでも健気な少女である。


「青峰と同じとこに行くんだ」
「うん。って言っても青峰くんまだ決まってないんだけどね」
「断り続けてるんだって?」
「…うん。試合だけ出るなんてわがままを許してくれるとこなんてそうそう無いよ。それでも青峰くんは練習は出ないって頑なに言ってるらしくて…」
「そうなんだ」


強豪校と有名な高校の監督が、全国各地からキセキをスカウトしに帝光中を訪れているのは私の耳にも入ってきている。中でも赤司くんは京都の洛山に、緑間くんは都内の秀徳に進学を決めた聞いた。涼太は海常からのスカウトを受けるらしいし、むっくんもまだ決まっていないようだがやはり強豪と名高い学校に入学を決めるのだろう。


「本当はテツくんと同じとこ行きたかったんだけど、放って置けないから」


もし私が青峰の幼馴染みだったらさつきと同じ選択をした筈だ。見捨てられない。放っておけない。幼馴染みとはそんなものだ。それが彼女の場合、好きな人よりも優先順位が上回ってしまうほどの存在だっただけ。自分の気持ちを押し殺してまるでそれが自らの使命のように。凄いのは全てを受け入れて覚悟を決めているということ。たとえ好きな人と離れ離れになって敵になろうとも。


「名前は?」
「ん?」
「名前はどうするの。やっぱり、きーちゃんと?」


聞かれると思った。話の流れからして聞かない方が可笑しいが。「やっぱり」と言うってことは、やっぱり周りにそう思われてるのだろうか。さつきが青峰について行くように、私も涼太に…。私は質問に上手く答えられなくて曖昧に笑ってみせる。選択によっては好きな人…涼太と敵同士になるわけでも離れ離れになるわけでもないから、さつきみたいに覚悟とか、それこそ使命みたいなのはないけど、わだかまりは消えない。
ずこー。空になった容器がストローを通して間抜けな音を立てる。さつき至極不思議そうな表情で私を見つめている。


「何かね、迷ってるの」
「迷う?」
「そ。涼太と一緒に行こうかどうか」


彼のバスケスタイルが始めた当初よりだいぶ違うものになってしまったのは、日々の環境も原因の一つと言える。しかし根本的にそれを涼太自身が肯定してしまっているからこそ確立されてしまったものだ。機械のようにバスケをこなす。そこに楽しさや喜びは、ない。見ていてとてもツラかった。ついこの前までそんなこと微塵も感じなかったのに……。そんなバスケを高校でも見せつけられるのかと思うと、涼太を選ぶことが躊躇われる。


「難しく考えすぎじゃないかな?」
「え…?」
「何が正しいか、なんて今はどうでもいいと思わない?」
「よくないから迷ってるのに」
「そうだよね、ごめん。でも何が正しくて、何が間違ってるのかじゃなくて、名前がどうするか……ううん、名前はどうしたいのか、だと思うなぁ」
「私が、どうしたいか…」
「うん」


さつきの言葉がストンと胸に落ちてくる。重要なのは正解不正解じゃなくて、私はどうしたいのか。…そんなの答えなんてとっくに決まっている。私は、


「涼太と同じ高校に行きたい…」
「うん」


さつきが笑う。素直に認めたことでわだかまりはいつの間にか消えてなくなった。バスケがどうとか難しいこと考えるのは止める!もし涼太と別々の道を選んだら、きっとこの先後悔すると思うから。
たとえ間違っててもそれでいい。どんな涼太でも全て受け入れよう。私を必要としてくれる限り、どこまでも共に歩んで行くつもりだ。昔の涼太に戻ってもらえるよう、私も頑張らなくちゃ。


「さつき、ありがとう!」
「いいえ!」


もうすぐ敵同士になるけど、貴女はわたしの一番の親友だよ。


13'0415
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -