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本当に、中学生にしては波瀾万丈な人生を送っていると思う。嫉妬に狂った女の子たちにいじめを受け、元部活仲間に強姦まがいなことをされるなど、まるでドラマを視ているようだと今でこそ感じることが多々ある。だがそれら全てを過去の話として語るには、私の中で簡単に片付けらるような出来事ではなかった。しかしながら傷は徐々に癒えていくもので、決して忘れはしないものの以前の生活を取り戻していつも通りの毎日を過ごしている。そして私たちは三年生に進級し、学年全体がさっそく受験モードに包まれていた。


「私たちも全中が終わったら受験に向けて勉強しないといけないね」
「もちろん俺と一緒のとこっスよね?」
「うーん…分かんない」
「え」


この時期ともなれば嫌でも受験やら進学先の話になるわけで。私は特に希望する高校はないので、自宅から近い所にしようかなあって考えてはいる。中学は親同士の意向で涼太と同じく帝光を受験したが、高校まで無理に同じにするつもりはない。そりゃあ一緒にいれるのは私だって嬉しいけれど、一つの人生の節目だからやっぱりそれだけで選んじゃいけないと思うから。それにおそらく涼太はバスケのスポーツ推薦ですぐに進学先は決まるだろう。もしそこが頭の良い高校だったら…とか想像すると、無理なく無難に合格出来る高校に行くのが妥当だろう。ショックを受けて項垂れる涼太の頭を撫でる。落ち込ませてしまったようで、もっと気の利いた事でも言えば良かったと後悔。最近元気がないみたいだし、ちょっと心配だ。


「最近、青峰っち練習来ないね」
「ね」


青峰が、ある日を境に練習をサボるようになった。それに淋しさを感じている涼太は時折とてもツラそうな顔をする。涼太、青峰と1on1やるの大好きだもんね。


「バスケ嫌いになったのかな…」
「…そんなことないよ」


うそ。本当は知っている。青峰が、誰よりも早く才能が開花したが故に悩みが増え、大好きなバスケを嫌いになりつつあること。練習をすればする程上手くなり、それに比例してバスケがつまらなくなっていること。対戦校の選手が諦める姿を見る度に自分のバスケへの熱か冷めていっているということを。


「何だか黒子っちの様子も可笑しくて…」
「……」
「聞いてもいつもはぐらかすんスよ。『何でもありません』って」
「涼太の気のせいじゃなくて?」
「うーん」


これも、うそだ。涼太の言っていることは何も間違ってなどいない。私も黒子くんの様子が可笑しいのはずっと前から気付いてた。それに青峰が関係していることも、ちゃんと気付いてるのに何も出来ないことにさつきが悲しんでいることも、私は全部知っている。吐き出したくて仕方ない言葉を涼太がいつも喉の奥に呑み込んでいることぐらい、見てればすぐ分かるよ。そして青峰の気持ちも黒子くんの気持ちも私には痛いくらい理解出来るからこそ本当の事は言えなかった。黒子くんに関しては涼太が自分で気付かなければ意味がないことだけど、でもね、だからと言って涼太がそんなに落ち込むことは無いんだよ。


「今は二人ともそっとしておいてあげよう?青峰だってまた練習来てくれるようになると思うし」
「そう…スかね」
「そうだよ。だからいっぱい練習して青峰より強くなろうね!」
「うん」
「ほら!元気出して涼ちゃん!涼太がそんなんじゃ私も元気出ないよ!」


私の拙い励ましに微笑みを返してくれた涼太。しかし、その後も青峰が練習に顔を出すことはほとんど無く、みんなのバスケスタイルにも大きな変化が見られるようになった。自分意外は信用出来ない、仲間を頼らないバスケ。誰も何も言わなかった。《勝つことが全て》という唯一にして絶対の理念が選手を蝕んでいたのかもしれない。
その年の全中も帝光の圧勝で終わり、三連覇という輝かしい記録を叩き出したのに喜ぶ人は誰ひとりとしていなかった。たった一年前の今日。勝利の喜びを、互いの肩を組んで分かち合っていたあの頃が、今ではとても懐かしい。私は、大きな歓声に包まれる五人と一人の淋しげな背中を瞼の裏に押し込んだ。

そして黒子くんは私たちの前から姿を消した。みんなは必死に彼を引き留めたが、彼が帝光バスケ部に戻ってくることはないのだろう。当然のことだった。


13'0406
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