29

ここが学校の廊下であることを忘れひたすらに走る。ショウゴくんが女を連れ込みそうな所を全て当たる猶予は残されていない。がしかし、奴がどこに名前を連れていったか全く見当が付かず、焦る気持ちだけが先走っていた。学校にいることは確かだが、今こうしてる最中にも名前が危険に晒されていると思うとどうしようもない思いに駆られてしまうのだ。
名前、名前。ごめんな。俺が側にいなかったばかりに、きっと怖い思いをしてるはずだろう。あんなに身体を震わせて泣いていたんだ。怖くないわけがないのに。ただただ無事でいてくれること祈るばかりである。


「クソッ!どこだ…?!」


旧校舎の男子トイレ。滅多に使われない理科実験室。新校舎二階の一番端にある空き教室。そのどこにも二人の姿はなく、過ぎていく時間に一層募る焦燥感。不意に頭に浮かんだ最悪の光景を振り払うように首を振り、走り回ったせいで額に滲んだ汗を腕で乱暴に拭う。
その時、ポケットの中の携帯が着信を知らせるバイブが鳴った。表示された名前は探している張本人であり、今一番会いたいと願っていた名前からのものであった。ツーコール目にして急いで電話に出た。


『り、涼太』
「名前!今どこにいるんスか?!」
『体育倉庫の中』
「わかった」
『どうしよう涼太、わたし、』
「大丈夫。すぐ行くから」


名前の声は焦りが混じるものの思ったより落ち着いている。ショウゴくんの手から抜け出し体育倉庫に身を潜めているのだろう。だとしたらアイツより先に見つけなければ。
「そこから動かないでね」と念を押して電話を切った。自然と速度は加速していく。声を聞いて安心したとはいえ、無事な姿を見ないと本当に安心はできない。とにかく名前の下へ早く行こうと、一旦報告ついでに青峰っちたちのいる下駄箱まで戻るとお馴染のメンツが集まっていた。桃っちは幾分か落ち着きを取り戻した様子で赤司っちに事情を説明している。


「あ、黄瀬ちん」
「どこへ行っていた」
「名前を探してたんスよ。それと、名前の居場所が分かったんで今から迎えに行ってくるっス。無事みたいだから心配しなくて大丈夫っスよ」


無事だから大丈夫。その言葉を聞いた桃っちの目に再び涙が浮かぶ。名前の身を案じていたのは俺だけじゃない。名前を守れなかったことに不甲斐無さを感じていたのだろう、俺と同じで。泣き出してしまった桃っちの頭を黒子っちが優しく撫でる。それは、いつもの俺と名前のようだと思った。


「名字はどこに?」
「体育倉庫に逃げたみたいっス。ショウゴくんに見つかるとマズいんでとにかく行ってくるっス」
「ああ。頼んだ」


最後に桃っちに目線を合わせるように屈み、自分に言い聞かせるようにもう一度「大丈夫っスよ」と言う。それに頷いたのを確認し、俺は下駄箱を後にした。






それから間もなくして見えてきた体育倉庫。幸い体育倉庫は一つしかないので迷うことなく到着することが出来た。四つ分の体育館で使用する道具類が仕舞われてるだけあって外から見ても相当な大きさだ。奥の方に潜り込めばちょっとやそっと叫んだぐらいでは、外まで声は届かなかっただろう。そう思うと全身がぞっとした。
そんなことより早く名前を助けないと。さすがにカバンとブレザーが汚れるのは困るので外に置いておくことにして、少し錆びて重くなった扉を開ける。風圧で砂埃が大量に舞い、倉庫独特の匂いと埃臭さが鼻につく。極力埃を吸い込まないよう手で埃を払いながら中を進む。昼なのに中は真っ暗で目を凝らしてもよく見えない。
これでは埒が明かない。手段を選んでる暇はないと踏んだ俺は、埃が入るのも気にせず大声で名前の名を呼んだ。


「名前ー!どこっスかー!」
「涼太…?」
「名前!……って、え?」


入口を少し進んだ所にある跳び箱の裏。ちょうど入口から死角となって見えないマットの上。そこに名前はいた。そして何故かうつ伏せで倒れるショウゴくんも。状況が掴めないまま、床でのびているショウゴを跨いで隅で小さくうずくまって震えている名前の傍に寄る。
リボンとワイシャツのボタンが外され、ブレザーとカーディガンが離れたところに放り出されているのを見ると、無理矢理脱がされたのが窺える。名前はショウゴくんから逃げてここまできたのではなく、ついさっきまでここでショウゴくんに襲われていたことが容易に判断出来た。


「怪我は?何もされてない?」
「平気、だいじょうぶ」
「はー…よかった〜」
「来てくれてありがとう」
「いいよそんなの。無事で良かった」


未だにショウゴくんを凝視する名前を抱き締めれば、視線を外すことなくおずおずと背中に回された腕。目尻に残る涙を指で拭い、涙の痕が残る頬に触れる。泣くほど怖かったのだろう。この前だって泣いていたんだし当たり前か。でもほんと無事で良かったと心から思う。もしこれで名前に何かあったなら俺はきっと冷静ではいられなかった。つかショウゴくんは何で倒れ…


「でもね、灰崎くんの急所……蹴っちゃった」


?!?!?!


13'0404
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