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《今日はモデルの仕事があるから遅れて学校行く!気を付けてね》
と、いつもの口癖が抜けた涼太からのラフなメールが入っていたのは、朝の5時半頃のことだった。こんな早くから撮影が入るだなんて、モデルとは骨の折れそうな仕事である。昨日も練習で帰宅が遅くなったというのに、中学生にしてかなりハードな生活を送っているとつくづく思う。しかし、バスケをメインにしたいという涼太本人の気持ちを汲み取ってくれた事務所側が、部活に支障がないようスケジュールを組んでくれているお陰らしいが、これでは健康状態に悪影響なのではないだろうか。
それに対し涼太は、「仕事の日数を減らしてる代わりに一日の撮影量は多いし朝早くて大変だけど、我が儘を聞いてもらってる分頑張らないとダメなんスよ」と笑って言っていたけれど。本人が納得してるので口出しなどといった野暮なことをするつもりはないのだが。
《大丈夫だよ!ありがとう。仕事頑張ってね、涼ちゃん》
送信完了画面を確認して携帯を閉じる。涼太は涼太なりに上手くやるだろうと自分自身を納得させた。
さて、私も朝練があるからそろそろ準備しなくては。
ベッドから立ち上がって制服に着替えていると、間もなく送られてきた涼太の返信に、それはそれはたくさんのハートが敷き詰められていましたとさ。お前は女子か。






「あ、お弁当ロッカールームに忘れちゃった」
「名前ってば昨日もマフラー忘れてたよね。意外におっちょこちょいなんだから」
「急いでるとどうもね…」


さつきにお昼に誘われ、そこで机の横に弁当の入ったミニバッグがなかったことに気付いた。朝は持ってたらおそらくまたロッカーだろうと結論付け、一緒に取りに行こうと言ってくれたさつきと共にロッカールームに向かう。今朝はギリギリまで朝練をやっていて当然の如くマネージャーたちも遅くなってしまい、昨日同様慌てて体育館を後にしたものだからまた忘れ物をしてしまったのだ。ちなみにマフラーを忘れたことは今朝マフラーをしてなかった理由を話して数人に知れ渡っている。


「あったあった」
「冬で良かったね」
「もし夏だったら、なんて考えたくないけどね」


私の不注意で関係のないさつきにまで時間を取らせてしまったことを謝罪する。「全然いいよ!」と笑顔で答えてくれたさつきは本当にいい子だ。無事お弁当も保護したことだしみんなはどこにいるのか問えば、屋上にいるとのことなのでそこに向かうことにした。
ちょうど渡り廊下を通って下駄箱に差し掛かった時、ポケットの中の携帯が震えた。差出人は黒子くんからで、先にお昼を食べてるから早く来てくださいという旨を伝えるメールだった。


「テツくんってばもうちょっと待っててくれてもいいのになぁ」
「黒子くんじゃなくて青峰でしょ。四限からずっと腹減ったって言ってたし」
「青峰くんはいつもそうなんだから!」


ぷんぷんとあくまで可愛らしく怒る彼女に気付かれないよう笑みをこぼし、再び携帯画面を見る。涼太からメールは届いてなかった。ということは、まだ涼太は学校に来ていないのだろう。学校に着けば授業中でも構わずにメールが来る筈だから。
早く来ないかなぁ、と呑気に考えている私は、大事な事を忘れていたのだ。忘れていた、と言うよりは安心していたのかもしれない。


「ね、名前。早く屋上行こ!私お腹空いちゃったよ」
「そうだね」


あの日から何の音沙汰もなかったことに、少なからず警戒心は薄れていた。
だから、考えもしなかったんだ。


「屋上行く前にちょっと俺と遊んでくれよ。なあ?」


こんなところでアイツと遭遇するだなんて。
気を付けてねって、言われてたのに。


「……っ!」


私を呼ぶさつきの声も目の前の男たちの笑い声も、何も耳に入ってこない。
ただ手から落ちた弁当箱が床に叩きつけられる音だけがやけに鮮明に聞こえた。


13'0330
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