25

「そんなことがあったなんて、私の名前に何てことを…!」
「さつき…!」
「桃っち。名前は俺のっスよ」
「そこはどうでもいいよ。つか私は君らの物じゃないから」
「そうよ!名前は物じゃないわ!それにきーちゃんはいつも独り占めしてるんだから少しぐらい私に分けてくれたっていいじゃない!」
「いやアンタも何言ってんの?」
「だめっス。いくら桃っちでも名前はあげれないっス」
「だから、」
「話が進まないのだよ」
「誰かコイツら摘まみ出せ」
「それは青峰くんの役目でしょう」
「名前ちん苦しそう」
「ハァ…」


右側から涼太に抱き締められ、左腕はさつきの豊満な胸に押し付けられ、息苦しくも苦笑いをこぼす。貴方たちも見てないで助けてよ。お昼食べれないじゃんか。


「大丈夫ですか名字さん」
「黒子くん助けて……」
「助けたいのは山々ですが、僕もどうすればいいのか」


唯一声をかけてくれた黒子くんに何とか手を伸ばすと手を掴んでくれた。頭上では相変わらず言い争いが続いていてなかなか終わりそうにない。さつきが黒子くんに目もくれないなんて。


「涼太」
「何スか!今忙しいから後にして!」
「うるせえいいから放せぇぇ!」
「おーおーついにキレたか」


さすがに我慢の限界でキレてしまった。私の怒声にパッと手を放した二人からすかさず離れてお弁当を抱えて黒子くんとむっくんの間に腰を下ろした。もう知らないと言わんばかりに玉子焼きにかじりつく。


「名前〜〜っ」
「ふんッ」
「ずーーーん…」


そこで反省してなさい。な、泣いたって駄目なんだからね!


「それで、これからどうする」


赤司くんの一言で場の空気が一気に張り詰めた。むしろ今までそういう空気にならなかったのが不思議で仕方ないと思っているのは多分私だけじゃない。
脱線しまくりの話を元に戻すと、あの日灰崎くんは怯える私に「こんなものじゃ終わらないから覚えておけ」と、確かにそう言った。つまりこれはまた何かしてくるということでまず間違いないだろう。それが明日なのか一ヶ月後、はたまた本当に来るのかも分からないことだが、私に恐怖心を植え付けるには充分過ぎる言葉であった。男を前にして力で押さえつけられてしまえば敵うはずもないことは目に見えて分かっているから、出来れば対峙することなく穏便に済ませたいものだ。


「灰崎は必ず何か仕掛けてくる。そうなった時に名字一人では太刀打ち出来ないだろうからしばらくの間は俺たちの誰かと行動を共にしてもらう」


お前たちもそれでいいな?
赤司くんの提案に皆が一斉に頷く。私としてもその提案はとても心強いし嬉しく思う。けど、私のためにそこまでしてもらうのは何だか申し訳無かった。
私が頷くのに躊躇っていると横からぬっとお菓子が差し出される。お菓子を差し出した張本人を見上げると、彼の紫の瞳に映る情けない私と目が合った。


「名前ちんが何考えてるかちょー分かるから言うけど、別に俺ら迷惑とか思ってねーし。特別にこれあげるから元気出してよ」
「…ありがとう」
「紫原っちにいいとこ持ってかれたっス……!」
「黄瀬は少し黙るのだよ」


てのひらにちょん、と乗った飴玉。黄色いからきっとレモン味だと思う。おそらく、彼なりに私を元気付けようとしてくれたのだろう。大事なお菓子をくれるなんて、そうでなきゃ彼は絶対にこんなことしない。頼ってもいいと言われたようで、ただただ嬉しかった。


「みんなありがとう。落ち着くまでの間よろしくお願いします」


私の言葉に満足気な表情を見せた赤司くんは、「さっそく今後についでだが、」と彼を中心に作戦を練り始める。いろいろ案が出てきたところで昼休みも終わりそうだったので、今回はとりあえずお開きすることになった。

各々が教室に戻っていく中で、後に続こうとした私の手を誰かが引っ張る。涼太だった。手首を掴んでいた手をてのひらに移動させて指を絡ませる。


「涼太?」
「大丈夫。俺がいるよ」
「うん。知ってる」
「大丈夫だよ、名前」
「…うん」


彼は見抜いていた。私の拭いきれない不安を。指先が震えている。でも震えてるのは私ではなく涼太の方。同じように涼太も不安なんだ。涼太は私が傷付くのを誰よりも恐れているから。私には彼の抱える不安を取り除いてあげることは出来ないけど、せめて何か安心させてあげられる言葉の一つでも言えたならよかったのに。


13'0325
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