22

焼けるような日差しに茹だるような暑さ。ある者は長期休暇を利用して避暑地へ赴き、またある者は家でだらけて過ごす。またまたある者は運動に励む。人それぞれが思うがままに夏休みを過ごし、新たにスタートする学期に向かう日々を繰り返す。
今年の全中は去年に続き帝光中の優勝で幕を閉じた。齢十三、四にして圧倒的強さを見せ付ける彼ら五人には、いつしか「キセキの世代」という名がついた。きっとそれはとても喜ばしいことなのかもしれない。けど、私は今の彼らのバスケはあまり好きにはなれないでいる。理由は分からない。でも、ほんの少しの小さな違和感が私の胸を奥を刺すのだ。
その違和感の正体に気付けないまま、私の、私たちの夏は終わりを迎え、そして秋へと移り行く。


「涼太、背伸びたね」
「そりゃあ育ち盛りっスから」
「いくつあるの?」
「春に測った時は179だった」
「私と20cmも差がある」
「ちっちゃくてかわい」


この前まで暑かった筈の季節は、いつの間にか日が沈むのは早くなり、制服も夏服から冬服へと変わった。
部活が終わって帰路に着く頃には空は真っ暗で、冷たい風が身体の芯まで冷やしてしまいそうだ。


「涼太はでかくて可愛くないね」
「いいっスよ可愛くなくて。どうせならかっこいいと思われたいし。もちろん名前だけにね」
「…私じゃなくってもたくさんの子に思われてるじゃん」
「名前じゃなきゃ嫌っス!」
「だあぁもういちいち抱き着かんでいい!」


ベタリとくっついて来る涼太を即座に引き剥がす。こんな巨体に上から抱き着かれると重くて重くてしょうがないのだ。
涼太は涼太で私に触れてないと落ち着かないらしく、手を繋ぐことで妥協しているようである。今だってほら、私の手を大きな手が掬う。


「名前の手は細くて綺麗だね」
「綺麗じゃないよ。水仕事してるから、ほら、こんなにカサカサ」
「ううん。名前の手は綺麗だよ、誰よりも」
「涼太の手の方が綺麗でスベスベじゃん」
「まぁ一応モデルっスから」
「……ムカつく」


さりげなく恋人繋ぎをしてきた涼太。思わず見上げると、彼は前を向いていて目が合うことは敵わなかったが、満足そうに笑んでいる横顔に、まいっか、と許してしまう私。誰かに見られたら…、は今は考えないでいよう。見られたら見られたできっと涼太が守ってくれるから。


「ねね、涼太。コンビニであんまん買って半分こして食べよ!」
「えー、俺肉まんがいい」
「じゃあ肉まんも買って半分ずつね」
「太るっスよ?」
「じゃあいい。一人であんまん食べるから」
「嘘!冗談だって!ああお願いだから怒んないで!」
「別に怒ってないよ」
「よかった〜。じゃあコンビニ行くっスよ。今日は俺が奢ってあげる」
「ほんと?!やったー!涼ちゃんありがとう!」


幼馴染みという関係にもどかしく感じることも多い。ちょうどいい距離感ではあるが、もっともっと涼太に近付きたいと思う。
臆病な私には告白する勇気なんてないけど、いつかは好きですって言えたらいいな。だけど今はもう少しだけこの心地よいもどかしさの中に浸っていたい。


13'0313
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