21

微妙な空気(決して悪いわけではない)のままバスは旅館に到着し、部員たちは割り振られた部屋へと荷物を運ぶと一軍はすぐに近くの体育館へ、二軍と三軍はバスで離れた施設へと移動することになった。相変わらず一軍は優遇されてるんだなあと思いつつ、近くに涼太がいないのを確認して急いでバスに乗り込む。実は今回の合宿は人数の関係で二軍のマネジメントをすることになっていた。絶対に涼太にだけは知らせるなと赤司くんから強く言われていたので(理由はなんとなく察しがつく)、バレないように努めてみたが、バスが出発して間もなく着信の嵐。言わずもがな涼太である。うるさくなることは安易に予想が出来たため敢えて電話に出ないでいると、30秒ほど鳴り続き、諦めたのかそれともメンバーの誰かに叱られたのか、その後携帯が震えることはなかった。旅館に戻ったらきっと大変だろうなぁ…。






「なんで言ってくれなかったんスか!」
「涼太…っ重い…!」
「電話も出てくれないしっ」
「ちょ、待って…ほんとに、うわッ」


長身の男を支えるのはさすがに無理があったらしい。抱き着いて全体重を掛けてくるものだから、支えきれず崩れ落ちてしまった。床に背中を打ち付けた衝撃で少し息が詰まったのと、ぎゅうっと腕に締め付けられてる苦しさで若干酸欠状態になってるのに気付いてほしい。なかなか離れない涼太と今にも窒息死してしまいそうな私を見兼ねて、青峰がまさにベリッという効果音が付きそうな勢いで涼太を剥がしてくれた。床に倒れる原因を作った張本人は慌てて私を立ち上がらせて背中についた埃を払い、先ほどよりも優しく私を抱き締める。
私が決めたことではないけれど、こんな姿を見てしまっては罪悪感が募ってゆく。涼太の肩越しに映るさつきや他のメンバーたちは困ったように笑う者もいれば、呆れて溜め息を吐く者もいた(ほとんどが後者である)。
練習を終えて旅館に帰ってもマネージャーの仕事は続いていて洗濯から夕飯の準備と慌ただしく、涼太と顔を合わせられなかったことも積もりに積もった彼の不満の一つなのは言うまでもない。今の涼太は不機嫌、というよりも、淋しさの方が勝っている。そんな感じがした。


「ごめん。内緒にしてたのは謝るよ」
「どうして言ってくれなかったの」
「赤司くんが、涼太が知ったら騒ぐから言うなって」
「最初から言ってくれれば騒がなかったっスよ」
「そう?」
「…やっぱ騒いだかも」
「うん、私もそう思う。私も本当は一軍が良かったんだけど、もう決まったことだから今回は我慢して欲しいかなって」


私の役目は一軍のマネジじゃないから。やはりどうしてもそこだけは変えられない。


「でもね、これだけは忘れないで。私が誰よりも応援してるのは、ただひとり、涼太だけだよ」


小さな声で、うん、と呟く涼太。淋しいのは涼太だけじゃないよって、どうやったら伝わるのかな。
いつの間にかロビーには私たちだけしかいなかった。多分、さつき辺りが気を利かせてくれたのだろう。背中をゆっくりと擦る。なんだかこんなのばかりだ。可愛い涼太も大好きだけど、やっぱり私としても周りとしてもかっこよくいてほしいのが本音。いつも思うがこんな姿をファンに見られたらショックで倒れちゃうと思う。もう慣れてしまったけれど、私がファンなら見たくない。部活の後輩にも示しがつかないし、何より恥ずかしい。私が。
とにかく今は早く機嫌を直してもらってとっとと部屋に帰そう。まだやらなきゃならない仕事もあるし。


「ねぇ、どうしたら機嫌直してくれる?機嫌が直るなら何でもするよ」
「……何でも?」
「うん」
「じゃあちゅーして」
「調子乗んな」
「え」


結局、眠くなるまで涼太に付き合い、そのままソファで寝落ちしてしまった私を部屋まで運んでもらったのを起きてから知らされ、私の分の仕事をやっといてくれたさつきに何度も頭を下げることになるのは、また少し先の話。寝る寸前に聞こえた涼太の声はまるで子守唄のようで良い夢が見れそうだなって、そう思って眠りに落ちた。


13'0108
続きません。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -