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「わーーっ!海!海っスよ名前!!」
「涼太うるさい」


バスの窓から見えたのは一面に広がる海。長時間のバス移動にほとんどの人がぐったりしてる中で、黄色頭はそれを目にした途端目をキラキラさせて、窓側に座ってる私の方へ身を乗り出してくる。こうなると分かってたから隣は嫌だって言ったのに、赤司くんってば真っ先に私に涼太のお守りを任せるんだから。涼太も私の隣じゃなきゃ嫌だ!とか騒ぐし。うぅ…本当はさつきと座りたかったのに…。ちなみにさつきは通路を挟んだ隣の席に青峰と一緒に座っている。なんだ、さつきも幼馴染みのお守りか。それにしてもさっきから涼太がほんとうるさい。そもそも、なぜ海のある場所に訪れているかというと、


「名前、名前」
「んー?」
「合宿楽しみっスね!」
「いや、全然」
「え」


そう、私たち帝光中学校バスケ部は夏合宿に来ているのだ。夏休みに入ってすぐに行われる一週間の強化合宿は、主に全中に向けての個人能力と基礎体力の向上が目的として行われる。だがこの合宿はマネージャーですら暑さに倒れていくという別名地獄の夏合宿だった。これから一週間お世話になる旅館へ向かい、午後からさっそく練習を始める予定でいるとのこと。涼太は先程から落ち着きは全くなく遠足前日の小学生のようだ。合宿が初めてらしく、だからこんなに誰よりもはしゃいでいるのかと思うと納得がいく。それにしても、最近涼太との距離が異常に、近い、ような。


「名前、名前」
「んー?」
「いっぱい遊ぶっスよ〜!」
「あのね、ここには練習に来てるんだから、………っ」
「!!!」


手元のスケジュールに落としていた視線を上げると涼太の顔がすぐそこにあって、近距離で黄色の瞳と目が合う。鼻と鼻が触れそうな距離にお互いの動きが止まった。数秒経ちほぼ同時に顔を逸らすも心臓がバクバクと脈打っている。こんなの今までしょっちゅうあったのに、ここのところやたら彼にドキドキしている自分がいることには素手に気付いていた。あの日を境に私たちの距離は以前より近く、より親密になったと自負しているが、きっとそれも自身の心境の変化に関係しているのかもしれない。


(これじゃ心臓がいくつあっても足りないよ………)


頬の熱を冷ますように手で扇ぐ。赤い顔を見られないように私はわざとらしく海を眺めるフリをして窓の方へ向いた。


「ちょっと青峰くん!今の見た?!」
「あん?」
「しーっ!声デカイ!」
「んだようるせぇな寝かせろ」
「名前ときーちゃん、いい感じだよ。あの二人付き合うのも時間の問題かも」
「はいはい」
「もう!青峰くん!」


さつきと青峰がそんな話をしていたことなど、自分の事で精一杯だった私たちは知る由もない。


12'1215
短いですね。合宿編続きます
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