19

赤司っちの仲介のお陰で喧嘩が長引くことなくその日に解決することが出来た。あの場を引き留められることなくそのまま離れていたら、もしかしたら一生名前に触れられなかったことだろう。扉に隠れて彼女の本音を聞いた時、どうしようもないぐらい彼女を愛しく感じた。少し痩せたように思われる小さな体を抱き締めると、名前は「自分を忘れて笑ってほしかった」と言った。けれどこの先彼女のことを忘れる日なんて一日もない。いつだって頭を占めるのは彼女のことなのに。他人のための自己犠牲、だなんて。でも俺が名前の立場ならきっと同じ選択をしたと思う。俺たちは近すぎて気づけなかったんだ。相手を大切に思う気持ちが強すぎた故に知らず知らずすれ違っていたことに。悲しくないのに涙が出たのは、傷だらけになってでも俺を守ろうとしてくれた彼女の想いが痛いほど伝わってきたからだったんだ。

名前は部活に復帰したが、無断欠席のペナルティとして三軍マネに一時降格。名前だけの責任じゃないから俺も三軍に降格させて下さいとお願いしてみたが、それは困ると監督や赤司っちに止められ結局一軍のままになった。名前は「マネージャーの仕事はどこも一緒だから平気」と笑っていたけど、やっぱ俺の姿を見ていて欲しいものだ。わがままは言えないけれど。部活復帰当日。部員の前で頭を下げて謝罪をした名前をみんなは暖かく迎えてくれて、それからはあの紫原っちからお菓子をもらったり泣いてる桃っちとしばらく抱き合ったりしていた。その微笑ましい光景を少し離れた場所から見ていると、隣に青峰っちがやって来る。


「ったく結局何だったんだか」
「…相手を想いすぎた故に、ってやつっス」
「はぁ?」
「青峰っちはないんスか?桃っちと、大切にし過ぎてすれ違っちゃうこと」
「ねぇな」
「そっスか」
「…お前、アイツのこと見すぎ」


青峰っちと話してる時も名前の姿を追ってしまう。あれ以来、名前への想いが一層膨らんだことを自覚している俺としては、黒子っちに頭を撫でられて照れ臭そうにしてる姿や、緑間っちにラッキーアイテムを持たせてもらって喜んでいる姿など、見ていてもこちらとしてはあまり楽しいものではなかった。
名前は学校ではやはり俺と接するのをどこか恐れている節がある。周りに俺のファンがいないか気にする回数は未だ減らない。実はあれからファンの子たちには、名前には手を出すなと釘をさしておいた。俺は名前のためなら体裁もモデルというステータスも俺は簡単に捨てられるだろう。今まで積み上げてきた功績を投げ出せるくらい名前より大切なものなんてない。
いつの間にか青峰っちは名前の隣にいた。人のことを指差しながら何やら話している。差された指先を追って名前が俺を見て、もう一度視線を戻すと青峰っちに手を振って俺の方に近付いてきた。


「どうしたの?」
「えっ?」
「涼太が呼んでるって青峰が」
「あー…うん、呼んだ。呼んだっス」


青峰っちに気を使われるなんて。確かに面白くはなかったが別に呼んでほしいなんて一言も………。遠くでニヤニヤしてる青峰っちと目が合う。っまあ名前と話せるし、青峰っちには一応感謝しとこうか。


「…………名前」
「なぁに?」
「もう怯えなくていいっスよ。ファンの子たちにはキツく言っといたから」
「なっ、」
「名前は大事にしろって言うけど、今回みたいなことが起こってまた名前が犠牲になるならファンなんかいらないっス。それに、名前を傷付けるならどんな奴でも許せねー」
「またそういうこと言って…」
「名前が俺を守ろうとしてくれたように、俺にも名前を守らせてよ。俺、名前が望むならモデルだって辞めれるんスよ」
「…馬鹿。私のためにそこまでしなくていいから」
「馬鹿は馬鹿でも名前馬鹿っス!」


気持ちを真っ直ぐに伝えると、最初は戸惑い視線をさまよわせていたがその後呆れたように名前は笑った。君の本当の笑顔に再び会える日は、もうすぐそこまで来ている。


12'1204
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