「何があったか全て話せ」 赤司くんは私が泣き止むまでずっと傍にいてくれた。授業をサボらせることになってしまったのは申し訳なく思うが今の私にはとても有り難い。以前だったら涼太が傍にいるのが当たり前だったから、誰かが一緒にいてくれるのがこうも嬉しく暖かいものだなんて知らなかった。それでもやっぱりここに涼太がもういないという現実を突き付けられているみたいで、止まったはずの涙が再び目尻に溜まった。赤司くんは一言も喋らずイスに腕と足を組んで座っていたが、痺れを切らしたのかそう口を開いた。「逆らうことは許さない」と続きそうな台詞にイエスと答えるしか私には残されていない。そもそも彼の本性を知っている人ならばノーだなんて冗談でも言えないだろう。そして私は、二つの赤い視線に促されるように全てを話した。何度も泣きそうになって、それを我慢する度に声が震えてしまいそうになったが、赤司くんはゆっくり話す私を急かすでも苛つくでもなく、時折頷きながら聞いてくれていた。そんなに長い話ではないけれど、体感はとても長かったように感じる。自分を落ち着かせるように一度大きく深呼吸をした。 「…ってわけです」 「ここまで馬鹿な奴らだとはな」 「うっ…返す言葉も御座いません………、ん?奴"ら"?」 「黄瀬だ」 目の前の彼は私たちを馬鹿と称す。曰く、誰から見ても二人が両想いなのは明らかなのに、大切の仕方や相手への思いやりが少しズレているらしい。涼太の笑顔を守るため自分を犠牲にした私がそう言われるのは分かるけど、なぜ涼太が?というか、涼太が私を好き?そんなの絶対ありえない。 私は分からなくなった。涼太の気持ちも、今まで彼が何を思い、何を感じてきたのか。少し前の私なら、それが手に取るように理解出来ていたのに。空いてしまった心の距離を埋めることは二度と出来ないのだろうか、なんて、そんなこと考えてるようじゃ覚悟が足りなかった証拠だ。 「これが正しかったと今でも思ってるわけじゃないだろうな」 「最初から正しいなんて思ってないよ」 「なら、お互いのためにももっと違うやり方があったんじゃないか?」 「……どうしていいか、わからなかったの。傷付けずに済む方法を探したけど見つからなかった。ほんっと、馬鹿。赤司くんの言う通りだよ。余計に傷付いただけで、結局誰のためにもならなかった…」 自嘲的な笑みを浮かべる。なんでもっと早くに気づかなかったんだろう。少し冷静に考えれば分かるはずだった。ひとりがダメならみんなで何とかすればいいだけ。私は全てをひとりで解決しようとしたから、傷付ける必要のない人を傷付け、多くの友人に迷惑を掛けてしまうことになってしまった。 「守りたかっただけなの。涼太の笑顔も、ファンを大切にしてる気持ちも。邪魔にだけはなりたくなかったし、私が黙ってれば済むことだと思ってた。傷は、時間が経てば癒えるでしょう?知られる前に治してしまえば問題ない、って。……でも、この考え自体が間違ってたんだね。赤司くんはこんな私に手を差し伸べてくれたのに……。本当にごめんなさい」 今一度赤司くんに謝罪する。赤司くんは「もう謝らなくていい」と言ってくれたけど、私が謝りたかったのだ。涼太にも、謝らなければ。許してもらえなくても、一生嫌われたままでもいいから、貴方を突き放したことの意味を知って、分かってほしい。嫌いになったわけじゃないと。それでも、過ちに気付けた今やり直すことができるなら、ついこの間までそうであったように、 「ねぇ赤司くん。まだ、間に合うかな?」 「ああ。名字の気持ちは黄瀬にしっかり届いただろうからな。そうだろう、黄瀬」 「…っどう、して」 喜びも悲しみも苦しみも一緒に分け合って、 「……………名前」 他でもない私の隣で笑っててほしいのだ。 12'1129 |