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決してこの手を放したいわけじゃない。むしろずっとずっと掴んでいたいと思ってるのに、手放さないでいることを許してはもらえなかった。どんなに弁明したところで信じてはもらえないだろうけど。
心配して追いかけて来てくれた涼太から逃げ続けるのは、言葉には簡単に表せないほど私を苦しめたけれど、私なんかより涼太の方が傷付いていると思うと私の苦痛なんてちっぽけでしかない。
結論として、彼らと少しずつ距離を置いていこうと決めた。そのためには部活も休まなければいけないし、みんなと極力関わらないようにしなければならない。そうすることが正しいなんて思ってないけれど、この選択が、お互いを余計に傷付けてしまうことになったとしても、いつか私を忘れて傷が癒えてくれたらそれでもいいかなって思えた。これ以上私のせいで誰かが悲しい思いをするのは嫌なんだ。ツライ思いをするのは、私だけで十分。だから、放したくなかった手を、一番放してはいけない手を、私は自ら手放したのだ。


「……………」


しばらく宙をさまよっていた手は力なく握られズボンのポケットに入った。いま涼太がどんな表情をしてるのかそれを窺い知る勇気など私は持ち合わせておらず、振りほどいたにも関わらずうつ向いて泣くのを堪えるのに必死だった。


「…もういいっスわ」
「あ…、」


一段と低くなった声に咄嗟に顔を上げるが、すでに涼太は踵を返して教室を出ようとしているところだった。行かないでほしいと伸ばしかけた手がピタリと止まる。私は何をしようとしているのか。彼を突き放した私に引き留める権利などない。振り向いて欲しい気持ちと、振り向かないで欲しい気持ちが交差する。そんな矛盾を抱く私を他所に涼太は一度も振り返らずに教室を出ていった。ひとり残された教室に私の啜り泣く音だけがしている。こうなることを望んだのは紛れもなく私で、泣くのは間違ってるって分かってるけれど涙は止まってくれない。今すぐに追いかけて謝りたい。本当はあんなこと言いたかったんじゃないと言えたならどれだけ救われるだろう。


「……りょ、た」
「だから言ったんだ。"お前ひとりの問題じゃない"と」
「うぅ、……っ」
「なぜひとりで解決しようとした」


涼太と入れ違いで教室に入ってきた赤司くんは泣いている私の傍で呆れた溜め息をついた。言葉こそ厳しいが彼は回りをよく視てここぞという時に手を差し伸べ助けてくれる。口には出さないけれど、赤司くんはいつだって私を気に掛けてくれていたのだ。この人たちを頼ることが迷惑でないことは分かってたけど、誰かを頼ることが出来なかった私の弱さが招いた結果。もっと早く助けてと彼らに助けを求めていたら、こんなことには絶対にならなかった。もう遅い。失ってしまってからじゃ、何もかもが遅すぎるのだ。
赤司くんのてのひらが私の頭を優しく撫でる。嬉しくて、だけどどこか切なくてまた涙が溢れた。この手が涼太の手だったらどんなによかっただろう。

違う。これで、これで良かったんだ。
だから、


「、ごめん…っごめんね、涼太ぁ…っ!」





後悔とか、寂しいだなんて気持ちは、いまは抱いちゃいけないの。


12'1120
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