13

あれからどれくらいの時間が経ったのか、気が付くと保健室のベッドに寝かされていた。痛むお腹を押さえて身体を起こす。今何時なんだろう。空がほんのり赤くなっているのを見ると既に授業は終わってしまっているみたいだ。部活も無断で休んじゃったからきっと赤司くんが怒って……。そういえば、意識を失う前に赤司くんの声を聴いた気がする。部活で毎日会っているから聞き間違えるなんてあり得ない。でもどうしてあそこに赤司くんが?夢でも見ていたのだろうか。
その時だった。私の思考を遮るようにベッドを仕切っていたカーテンが誰かによって開けられた。開けられた先にいたのは今まさに考えていた人物が練習着のまま立っていた。


「赤司…くん?」
「起きてたか」


驚きを隠せるはずがない。やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。赤司くんの目が全てを物語っている。元々、赤司くんには隠し事は通用しないのは知っていたけど、よりによって彼にバレてしまうなんて。誰にも、涼太にも言うつもりなかったのに。


「どうして、」
「昼に屋上に行くお前を見掛けたんだが、いつもと様子が違ったから少し気になって後を追いかけた」
「お願い、涼太には言わないで」


次いで出た言葉に赤司くんは赤い瞳を細めた。全てを見透かすようなその目が私は苦手だ。心の奥まで知られてしまっているような感覚に陥ってしまう。でも目を逸らしちゃダメ。


「これは名字一人の問題じゃないだろう」
「分かってる。でも涼太には知られたくないの」


こんな、私が涼太のファンにやられたなんて知られたら、きっと彼のことだから、俺のせいだって自分を責める。そんな風に傷付いてほしくない。


「……」
「お願い」
「何故そこまでする必要がある」
「…涼太のため、だよ」


笑っててほしいから、私はこのことを胸の内にしまうって決めたの。ちょっとだけ目を見開いた赤司くんにへらりと笑うと眉間にシワを寄せてた。綺麗な顔が台無しだよ、とはさすがに言えなかったけど。


「自分が傷付いてもか?」
「…うん」


いつの間にか下を向いていた私の頭上から大きな溜め息が聞こえた。そうか、と短く一言だけ残すと赤司くんはドアに手をかけこちらを振り向いた。


「お前がそれで良いなら俺は誰にも言わないよ」
「ありがとう」
「今日の部活は休め。あとで黄瀬に迎えに来させるから送ってもらうといい。アイツには貧血で倒れたと言っておく」


頷いてもう一度ありがとうと伝えると彼は保健室を出ていった。
足音が遠ざかるのを確認してシャツを捲ると大きな痣があった。鳩尾にも一つ、お腹ほどではないがそれなりに大きいものがある。しばらくは消えそうにないな。服を着てれば見えない位置にあるのだけがせめてもの救いだった。
バタバタと騒がしい足音がする。もう来たのかと少し苦笑いしてベッドから足を下ろす。ドアが勢いよく開かれ入ってきた黄色に抱き締められた。涼太の香りに包まれると酷く安心した。少し汗ばんだ身体。部活後に汗をかいたまま制服を着るのを好まない涼太にしては珍しい。それほど急いで来てくれた証拠。貧血だけで血相変えるほど心配してくれてるんだもん。あんなことされたなんて言えないよ。頭を撫でれば抱き締める腕が強くなった。ちょっとだけ苦しくて、お腹も痛かったけど、私もぎゅって抱き着いた。

隠し事してごめんね。好きだよ、ずっとずっと誰よりも大好き。たとえ涼太が私をただの幼馴染みとしてしか見てないとしても、私は大好きだよ。だから、あなたは笑ってて。


12'1011
本当は両想いなのに気付かないふたり
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