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バスケ部に入って数週間。青峰っちに憧れてバスケを始めた俺だけど、もう一軍に昇格できた。強豪校っていうほどだからどんなもんだろうと思っていたけどなんだ、余裕じゃん。これならレギュラー入りも夢じゃない。退屈だった日常から脱け出せた喜びと、青峰っちのような越えられない人の存在に何とも言えない感情が生まれる。スポーツでこんなに楽しいと思えるのは初めてだ。
休憩を知らせるブザーが鳴って、みんな各々散らばりマネージャーからドリンクを受け取っている。辺りをキョロキョロ見渡してとある人物を探す。


「涼太」


ピトリ。頬に冷たい物が宛がわれ肩を揺らす。俺の反応が面白かったのかくすくす笑うのは、幼馴染みの名前。俺が探していた人物だ。名前からドリンクを受け取って一気に飲み干した。あっという間に空になったボトルは再び彼女の手に戻っていく。


「やっぱ美味いっスね。名前のドリンク」
「当たり前でしょ。これで不味いとか言ったら二度と作ってやんないんだから」


俺のドリンクは俺の好みに合わせて作られた、名前特製のオリジナルドリンクで、入って間もない俺だがわがままを言って作ってもらってる。だけど名前は嫌な顔せずに頷いてくれた。どうやら一軍マネジの中でもなかなか偉いらしく独断で決めていいらしいとのこと。


「そんなの嫌っス!!」
「ふふ。それに、涼太のわがままに振り回されるのは私だけでじゅーぶん!」


名前はにこりと笑って、汗で額に貼り付いた俺の前髪を指で払った。


名前とは物心がついた時には一緒にいるのが当たり前で、まるで本当の兄弟のように育ってきた。明るくて元気で、かと思えばクールな時もあったりするし、恥ずかしがり屋さんで、でも甘えん坊だから平気で抱き着いたりしてくる。俺がすると恥ずかしがるのに。清楚な見た目からは想像つかないほどに大雑把でガサツな面もある。あといつも笑顔。泣き顔なんてほとんど見たことないってくらいよく笑う。花のような笑顔って多分こうゆうのを言うんだろうなぁっていつも思う。その笑顔に俺は何度も助けられた。そしていつからか彼女の笑顔をこの手で守りたいって、強く思った。


「そうだ、今日お母さんが家にご飯食べに来ないかって」
「行く!絶対行く!」
「そんなムキにならんでも」


名前のことをただの幼馴染みとして見れなくなったのはいつからだっただろう。俺の名前を呼ぶ声が、艶のある長い黒髪が、触れる指先や彼女の全てが愛しく感じるようになったのはわ、いつからだろう。

贔屓目とかではなく彼女には人を惹き付けるそれだけの魅力がある。知らないフリをしているだけで、告白だってたくさんされてるのを俺は知っている。
名前だけだった。名前だけが昔から、今だって俺を俺自身として見てくれる。見た目だけで群がってくるバカ女たちとは違う。モデルとしての黄瀬涼太ではない、ひとりの人間としてのありのままの黄瀬涼太を見てくれる唯一の存在。
本当は女子にだって万人受けするはずなのに、その可能性を奪ってしまっているのは紛れもないこの俺で。自分で言うのもなんだがモデルをやってるだけあって俺はモテるし、そんな俺と一緒にいる名前は女子からの反感を買いやすい。でも、傍にいるだけで彼女の魅力が損なわれてしまってるとしても、俺は名前の隣を離れることは多分この先一生出来ない。それだけ俺は彼女のことが好きなんだ。
惹かれるのは簡単だ。ただ俺にはこの関係を崩れてしまうのが堪らなく恐ろしい。だから踏み出せずにいる一歩。


「あ。休憩も終わるしそろそろ仕事戻らないと」
「名前」
「ん?」
「俺のこと好き?」
「?好きに決まってんじゃん」
「俺も好きだよ」
「…急にどうしたの」
「なんでもない」
「変なの。じゃ、行くね」


去っていく後ろ姿を見送ると練習が再開された。静かだった体育館にはスキール音とボールのぶつかる音が響き渡る。
分かってるよ。君の好きが俺のとは違うってことぐらい。俺の好きも自分と同じだと思ってるんだろ?今はそれでもいい。だから、他のどの男よりも一番近くで君のことを守らせてください。


12'1005
黄瀬くん視点でした
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