08

「よぉ」
「…………灰崎くん!」
「お前一瞬俺の名前忘れただろ」
「そんなことないよ。むしろその逆で思い出してたんだよ」
「てめぇ」


灰崎くんはバスケがとても上手で一年生にしてスタメンに選ばれた人だ。だけど暴力沙汰が絶えないらしく、あまり良い噂は聞かない。
そんな灰崎くんにやたらと絡まれるようになったのは年が明けて一軍マネジに昇格してから。
どんな時でも私を見掛けるとすぐにちょっかいを出してくる。灰崎くん曰く私の反応がいちいち面白いからだとか。


「ごめん、用があるならまた後でにして!私のクラス移動だからもう行かなきゃ」
「は。んなの俺が知るかよ」
「んだと!ってちちち、近いよ灰崎くん!!!!」


腕を引っ張られて体ごと無理矢理振り向かされた先に、灰崎くんの顔がドアップであった。右腕掴まれたまま壁に押さえつけられた。男の力に敵うはずもなくされるがまま。
廊下にいる生徒たちは灰崎くんが怖いのか誰も止めようとはせず哀れみの視線を私に送る。


「俺はよぉ、お前が思ってる以上に気に入ってんだぜぇ?名字のこと」
「意味、わかんない。いいから放して!」
「そのお願いは聞いてやれねぇなぁ」
「放せ!」
「あ゛ぁ゛?」
「ぎゃーー!ごめんなさいごめんなさい!!」


どんなに強気でいっても灰崎くんはやっぱり怖かった。というかこの状況からして私は不利だ。下手に逆らわない方がいいのかもしれない。でも授業に遅れちゃう…


「あー!!灰崎くん名前に何してるの!?」
「チッ。うるせぇ奴が来やがった」


私を探しに来たさつきは、私が灰崎くんに絡まれてるのを見つけると直ぐ様駆け寄ってきて彼から引き剥がしてくれた。
灰崎は(もう呼び捨てでいいよこんな奴)面白くなさそうに顔を歪めて自分のクラスへ帰っていく。


「灰崎バーカバーカ!」
「今度覚えてろよ」
「ヒィ!ごめんなさい灰崎くん!」


灰崎くんの唯我独尊ぶりには毎度悩まされている私たち。もう、ほんと、絡む相手変えてくださいお願いします。

なんで私にばっか絡むのだろう。

正直、迷惑です。でも本人には言えない。


「名前!大丈夫?!怪我とか、何もされてない??」
「大丈夫。ありがとう、さつき」
「良かったぁー。ほんと彼には気を付けてね?」
「…うん」


12'0928
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