「朝まで居座って悪かったな」

「いえ、楽しかったですし気にしないでください」

「二人とも相変わらずで安心しましたよ」


朝、二日酔いの永倉さんに肩を貸す原田さんは申し訳なそうに私に謝る。それに私は首を横に振った。呼んでくれてありがとな、と原田さんは言った。本当は忙しいのにこうしてわざわざこうして総司に会いに来てくれた彼らにお礼を言うのはむしろ私の方。本当に私も総司も嬉しかったんだ。


「あの、本当に永倉さんお願いしちゃって大丈夫ですか?」

「ああ。新八も今日仕事だからな。それに今日お前、有給なんだろ?ゆっくり休めよ」


こいつがいたんじゃ休めねえからな。と目を細めた原田さん。う〜〜と気分が悪そうに(悪いんだけど)唸る永倉さんに、彼らが買って来ていた二日酔いに効くドリンクを渡した。こんな状態で仕事なんて出来るんだろうか。同じ学校で教師をしているみたいだから、原田さんに任せれば大丈夫だろうけど、なんか心配。そんな私の心情を読み取ったのか、永倉さんは、平気平気!と笑ってみせた。うん、心配だ。


「じゃあそろそろ行くわ」

「はい。お気をつけて」

「ああ。…総司」

「なんですか?」

「…会えて良かった」

「僕もですよ、左之さん、新八さん。…今までありがとうございました」

「元気でな」

「はい、お二人も」


名残惜しそうにしていた原田さんは少しだけ悲しそうな表情をしたあとに、片手を上げ帰っていった。総司は玄関をしばらく見つめたまま動かなかった。


――


みんなが帰って静かになった部屋で、私たちは何をするでもなくソファに寄り添って座ってた。指を絡め合うように手を握って、私は総司の肩に頭を預ける。離れていた時間を埋めるように、ただずっと傍にいた。総司の手は、戻ってきた日と同じくらい冷たいままで、決して温かくなることは無いんだと、昨日の彼に起こった症状で思い知らされた。わかってる。彼と長くは一緒にいられないことぐらい。わかっってる。彼にはもう多くの時間は残されていないことぐらい。それでも、それでも離れたくなくて握る手に力を込める。それに比例して彼も力も強くなった。


「名前、ありがとう」

「何が?」

「みんなを、僕に会わせてくれて。嬉しかったよ」

「ずっとみんなで一緒にいたのに、私だけ総司を独り占めするなんてズルイでしょ?」

「そうかな?僕は名前だけのものだから、別に独り占めしてもいいんだよ」

「じゃあ私は総司のものだね」

「当たり前だよ」


総司の大きな手が頭を撫でてくれるととても落ち着く。私は肩に頬を擦り寄せた。今日は甘えただね、とくすくす笑う総司。


「たまには私も甘えたいの。今日は仕事もないし、ずっと総司といれるんだから」

「名前ってツンデレだよね」

「ツンツンしてるつもりなんてないけど?」

「でもあんまデレてもくれないよね?」

「デレて欲しいの?」

「僕はそっちのが嬉しいかなー」


と、総司は言った。私は繋いでいた手を離して立ち上がる。そして、少し、いやかなり恥ずかしいけど、総司の膝の上に向かい合うように座った。恥ずかしくて顔に熱が集まってくるのが自分でもわかる。今日はとことん甘えてやろうと思ってこうしてみたのはいいけど、妖しく笑った総司の顔を見てられなくってそのまま抱きついた。


「やけに積極的だね?」

「ち、違う!総司が、甘えられた方が嬉しいって言うから、今日は存分に甘えようかと、思って…」


どんどん語尾が小さくなる。もう顔は真っ赤だ。なんかひとり暑い。


「へー。献身的な彼女だね」

「そ、総司にだけだよ!」

「うん、可愛い」

「……なんかあんまり嬉しくない」

「素直じゃないなぁ」


どうせ素直じゃないですよ、とふてくされ気味に返すと、総司はごめんごめんと笑いながら謝った。別に怒ってないもん、うん知ってる、馬鹿、名前も馬鹿だね、とかくだらい会話を続けた。私は総司から体を離して彼の若草の瞳を見つめた。いつ見ても綺麗な瞳には私が映っていた。総司の顔が近づいてきて目を閉じる。総司は触れるだけのキスを何度も私にしてくれた。手は冷たいけれど、唇は温かかった。彼に触れる度に、私の体温を分けられればいいといつも思った。


「明日平助に会いに行こうね。平助も会いたがってたし」

「うん、いいよ」

「大学のね、オープンキャンパスの手伝いしてるんだって。だから、大学、行こう」

「うん」

「平助が大丈夫だったら、そのあと三人でご飯ね」

「うん、そうだね」


再び総司に抱きつく。総司は優しく背中をさすってくれた。


「名前、」

「…」

「辛い思いをさせたりして、ごめんね」


ぎゅっと総司に抱き締め返される。嬉しいはずなのに、どうしてか私は胸が締め付けられた。



少しでも傍にいたくて

(今だけはふたり、同じ色の夢を)


110407
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