報せを聞いて名前の両親が仕事を中断してかけつけた時には、残された時間は残り僅かになっていた。 緊急治療室に運ばれた名前は、心臓の動きが二回停まったにも関わらずまた命を吹き替えした。そして小さな声で、俺と両親に会わせて欲しいと言った。これが最後になるだろうから覚悟しておいてくれ。担当医は目を伏せていた。 「名前、」 「…はじめ」 両親と会話をしたあと俺を見る。 「おねがい、なかないで」 「…」 「わたし、いますごくしあわせなの」 「名前…ッ」 「まいにちはじめといれた。はなをくれた。はなしあいてになってくれた。こんなわたしをすきだっていってくれた。うれしかった。しあわせだったの」 「…俺も幸せだ」 「ね、わらって。はじめ。わらってよ」 笑えたかなんて分からない。だが名前の表情が全てだった。 「はじめ…は、どんな…こい…する…かな」 「笑えない冗談はよせ」 「…ほんき……よ、」 「…」 「いままで…ありが…とう」 これでやっと海に行ける。穏やかな口調でそう言った名前は、その瞳をゆっくりと瞼の裏に隠した。 冷たい手を握った アンタのいない世界なんて意味がない。 110911 |