「良い天気ね」
「そうだな」
「あ、ちょっと止まって」
「?どうかしたか」
「あそこに咲いてる花が綺麗だからもう少し見てたくて」


少し離れた場所に咲く真っ赤な一輪の花。この良さは俺には分からないが、名前が望んだことはなるべく叶えてやりたいと思う。


「気が済むまで見るといい」
「綺麗だね」
「…ああ」


室内に篭るのは身体に好くないから散歩に出掛けたらどうか。そう提案したのは名前が小さい時から世話になってる医者だ。彼女が退屈しているのを知っての提案だった。それに嬉しそうに頷いた名前を車椅子に乗せて庭を廻る。

鳥が空を飛び風が草を揺らし池の魚が泳ぐ当たり前の光景の一分一秒を、宝物のように眺めるその時の名前の横顔は、綺麗でそれでいて儚かった。


やがて名前はしばらくその花を眺めたあと、戻ろうと小さく呟いた。


「明日花を買ってくる」
「え?ほんと?!」
「ああ。名前が欲しいなら、だが」
「欲しい!欲しい!」
「何がいいんだ」
「チューリップ!真っ赤のよろしくね!」



笑顔咲いた

お前が喜ぶことは何でもしてやりたいんだ。


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