携帯がけたたましく鳴り響く。手だけを動かして携帯を探す。だがなかなか携帯は見つからず、そろそろ目を開こうとした時不意にうるさかったアラームがピタリと止まった。それを不思議に思った私は眠たい目をこじ開けた。すると目の前には携帯を持ってにこりと笑う総司の姿が。ボーっとする意識で、ああ、そういえば…と昨日の事を思い出した。


――


「なんで、総司、」

「何でだろうね。僕にもよく分からない」


驚愕に声を失う私を見て苦笑を漏らす彼は沖田総司以外の何者でもなくて。目の前にゆっくりと立った彼をただ見上げるしか出来ない。どうして?どうして彼がここにいるの?総司は一年前の今日に死んでしまったはずなのに、なんで。都合の好い夢を見ているのかもしれない。会いたいと思う強い気持ちが私に夢を見せてくれているのかもしれない。きっといつの間にか眠ってしまったんだ。だって、あり得ないもの。総司は、総司は。そこで、総司の冷たい掌が混乱する私の頬に触れてハッとした。


「君が、…名前が、泣いてる気がしたんだ」

「わたしが…?」


私を見る心配そうな、でも嬉しそうな目が細められる。変わらないその仕草に私の顔はみるみる歪んでゆく。涙が頬を伝うと同時に肩を引かれて総司の胸に納まった。彼の香りが、聞こえる鼓動が、私を安心させてくれた。


「会いたかったよ名前」


――


「どうしたの?ぼーっとして。寝ぼけてる?」

「んーん…おはよ」

「うん。おはよう」


片肘をついて頭を支え寝転ぶ総司はクスクスと笑う。それにつられるように私も笑い、今日も仕事があるため朝の準備をしようと起き上がると、総司も一緒になって起き上がった。あ、寝癖、と髪を触りながら呟くと、総司も、名前も寝癖ついてるよと私の髪を触ってまたお互いに笑い合った。

顔を洗ってスーツに着替えて朝食の準備をするためキッチンに立つ。冷蔵庫を開けると卵とケチャップが目に入ったからオムライスでも作ろうか。


「総司。朝ご飯オムライスでいいかな?」

「うん、いいよ」


洗面所から戻ってきた総司は私の問いに答えながらソファに座る。リモコン片手にチャンネルを回すのを背に私は料理を始めた。誰かに料理を作るだなんて久しぶり。学生時代はよくこうして手料理をしてあげていたなーと思って顔が綻ぶ。あの頃に比べたらかなり上達したんだからね。素直に美味しいって言わせてやるんだから。


「はいどーぞ!」

「ありがとう。朝から名前の手料理を食べれるなんて、贅沢だよ」


私は、味は薄くないよね?とからかう総司の向かいに座って腕を組んで見せる。


「前の私とは大違いよ!」

「へえ。じゃあ早速食べようかな」

「召し上がれ。そして驚くといい!」

「朝から元気だね」


ぱくり。オムライスが一口総司の口の中に消えていく。数回もぐもぐと噛んだあと、総司は少しだけ目を見開いて私を見る。その反応に私はにんまりと笑みを浮かべる。


「…美味しい」

「でしょ?一応毎日料理してるんだから」

「本当に美味しいよ。上手くなったね」

「ふふ。ありがとう」


それから総司がオムライスを平らげるのにあまり時間は掛からなかった。普段食の細い彼が、私の作ったご飯を美味しい美味しいと食べる姿を見るのはとても嬉しい。また夜も頑張って作ろう、そう思った。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした。あ、お皿は私が洗うよ」

「いいよ。これくらいは僕がやるよ」

「え、いいよ。総司は座ってて」


お皿を洗うと言い出した総司を制するように私も立つ。そんな彼は「これは僕がやるよ。美味しいご飯のお礼にね。お皿洗いなんかより、もっと大事なことがあるでしょ」と時計を指さす。時計はもうすぐ7時半になるところ。…え?7時半?


「ええっ!?もうこんな時間!?急がないと!」

「ほらね。これは僕がやっとくから」

「う、うん!!お願い!」


バタバタと慌ただしく準備する私を総司はケラケラと笑いながら眺める。玄関に行く前に振り返った私に、急がないの?と首を傾げた。


「…総司、私の知らない所で消えちゃ嫌だからね」

「!、…大丈夫。僕は消えないよ。ほら、急がないと」

「あ、そうだった!いってきます!」

「行ってらっしゃい」


走って転ばないようにね。笑いを含んだ総司の声は急ぎ焦る私には届かなかった。



穏やかな朝、貴方と私

(走りながら晩ご飯は何にしようかなんて考えてる自分がいた)


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