総司が帰ってきてからもう今日で7日目。私は朝から総司にくっつきっぱなしになっていた。消えないで、なんて言えないから、せめて離れないで、と思った。手を繋いでも寂しさは拭えない。抱き締めても満たされない。総司も無駄に好きとか言わないのは、別れが少しでも暖かいものでありたいと思っているから。これが夢だったら、私の願うままにずっとずっと一緒にいれるのに、現実とは時に厳しく突き付けられてしまうもの。お互い口には出さないけど、別れが近いことは分かってる。その別れが今日だということも。さっきから総司の身体が透明になる間隔が短くなってきているから、嫌でも理解してしまう。どうすることも出来なくて、でも受け入れることも私には無理だった。


「名前、君はこれからも強く生きるんだ。僕の分も、君に生きて欲しい」

「…うん」

「あとはそうだな、名前の料理は醤油が薄すぎるからもう少し濃くした方がいいよ」

「総司が濃すぎるんだよ」

「あはは。そうかもね」


総司は笑った。私は笑えなかった。


「名前は奇跡って信じる?」

「あんまり」

「僕は信じてるよ」

「どんな奇跡?」

「…僕の最初の奇跡は、君に出会って、恋に堕ちたこと。そして、最後の奇跡は、」

「…」

「君を愛した時間と日々、全てだ」

「…ッ、」

「全てが僕にとって奇跡そのものなんだ」


まるで慈しむように頭を撫でる総司の手が、とても暖かくて私の目からは堪えきれずに涙が流れた。


「あ…っ、身体が…」


また、総司の身体が透けた。でも今度はいつもと違って身体が全体が透けていた。ついに、来てしまった。


「この一週間本当に幸せだった。ありがとう」

「私もだよ、総司」


総司の手が、足が、身体が。全てが透明になった。すぐに足元がきらきらと光って、足からゆっくりと消えてゆく。


「もう時間だ」

「やだッ!総司、離れたくないよ…!」

「僕はずっと君の傍にいるよ。姿は見えなくても、君の傍に在り続けるから」

「やだよ…いかないでよ、総司」


止める術を失った涙を総司が拭うが、それでもボタボタと床に落ちていった。


「忘れないで、僕は君を愛してる」

「うん…ッうん!」

「僕は君に永遠の愛を誓うよ」


顔が近くなって目を瞑ると抱き締められてキスをされる。最後のキスは暖かくて切ない涙の味がした。


「さようなら」





小さな風が吹いて、目を開けた。そこに総司はもういなかった。



のこったのは、香りと

(苦しいくらいの、あなたのぬくもり)


110408
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