誰もが崇める預言が僕は嫌いだ。何故なら、僕は預言によって産まれたからだ。導師イオンの死が詠まれ、望んでもいないのにこの世に産み落とされた。なのに僕を、──七番目を除く僕らを待っていたのは、代用品にすらなれないゴミとして火山に棄てられる運命。僕は僕を産んだ預言を恨み、憎み、そして消滅を強く望んだ。そんなものさえ無ければ、もしくは導師の死さえ詠まれなければ僕は、僕たちはこんな惨めな思いをしなくて済んだのに。僕は火山に棄てられていった仲間たちの為にどうしても預言を消さなければならない。なにより、自分自身の為にも。





「ずっとこの時だけを待っていた」


独り言は風に乗って何処かへ消えた。ホドのレプリカとして蘇ったエルドラントで、僕はもうじき来るであろうルークたちの最終関門として立ちはだかっていた。奴らとはことあるごとに衝突を繰り返してきたが、お互いこれが最終決戦になる。もう素顔を隠し続けた仮面もつける必要はない。導師の力を出し惜しみする必要もない。
すぐ近くで激しい爆発音や金属のぶつかり合う音がする。そこにはきっと自分の部下もいるだろう。そして唯一信頼を寄せる副官の少女も。ヴァンがレプリカだけの世界を創ろうとしていることや、自分たちが何の為に戦っているのかを彼女は知らない。そして僕がエルドラントで散ろうとしてることを。思えば彼女は何も知らされてはいなかった。なのに疑うことを知らない彼女は命令には忠実だった。それも今日で解放される。今日は全てが終わる日なんだ。





「っシンク!!」


力及ばず倒れる僕。地面に身体を打ち付ける直前に聞こえた彼女の声がやけに鮮明で。もう起き上がることさえ出来ないほどボロボロだった。駆け寄ってきた彼女も傷だらけで服に血が滲んでいた。僕の身体からはきらきらと光る粒子が溢れゆっくりと天に昇っていく。かなわなかった。力も、願いも。でも心は随分穏やかだ。僕はやっと生というしがらみから解放される。何も怖いものなんてない。僕という存在が消せたらいいと何度も思っていた。生きる意味なんてなかった。ただ憎しみに囚われて何かを恨み続けてゆく。ただそれだけ。こんな命いつ棄てたって良かった。


「シンク…っ、シンク!」
「……ないてるの?」
「うっ…、…く、」


それでもアンタとの未来を想像するのは苦じゃなかった。毎日笑って過ごすのも悪くないって思えるんだ。


「なかないでよね…。最期くらい、わらってよ」
「笑える、わけっ、ないでしょ…!」
「あはは…そ、か」
「ばか!なんで…」
「アンタなら僕がいなくてもきっと大丈夫。ひとりにしちゃうけど、ごめん」
「謝るぐらいなら、逝くな馬鹿ぁ…」


僕の手を握る彼女の体温が伝わる。あたたかい。その上にポタポタ雫が落ちた。僕の為に涙を流してくれる人なんてアンタくらいしかいないから、今とても嬉しいよ。でも可笑しいよね。死にたくないって思ってる僕がいるんだ。この世に存在する何もかもが嫌いで、あんなに終わらせたかった筈の命が今はこんなにも惜しい。それは彼女という存在に後ろ髪を引っ張られるからなのか、なんなのか。段々と音素乖離していく身体。ただ彼女の手を弱々しく握ることしか出来なかった。


「じゃあね、」
「ヤダ、シンク!嫌っ…いかないで!!」
「    」


するり、と彼女の体温が離れていった時。僕の身体は音素として還るべき場所へ還っていった。さいごに呟いた君の名を呼ぶ声が届いていれば、それでいい。



どうしてかな 君の隣は嫌いじゃなかったよ

image:Alice
古川本舗/初音ミク
∴企画 無限ループ 様提出
12'0423
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