「ファーストネーム先輩、洗濯物はこれで全部です」
「そう。ありがとう」
「わたしこれ終われば休憩なんで手伝いますよ」
「じゃあこれお願い」


新人メイドのエリザと二人で洗濯物に皺が付かないよう気を付けて干していく。洗濯物を手に取ると、ふんわりと洗剤の良い香りがした。今日は珍しく晴れ。曇りのない空からは太陽の光が差し込んでいる。ここのところ雨や曇りが続いていたから、外に干すのは久しぶりだった。よかった、これならすぐに乾くし、奥様もきっと喜ばれる。嬉しそうになさる顔を思い浮かべると私も自然と嬉しくなった。メイドの仕事は休みもないし大変な事ばかりだけど、何事もポジティブに考えなさいって死んだ母さんが言ってたもの。


「ふー終わった…」
「量ありましたね」


大量の洗濯物を干し終えた時には日差しが差してることもあり、額にうっすらと汗をかいていた。それを手の甲で軽く拭った。


「助かったわエリザ」
「いえ。先輩はこれから休憩ですか?」
「ううん、まだ」
「そうですか。お先に休憩戴きます……あ、ルーク様だ」


お屋敷の中央にある広場はここからよく見える。ルーク様の紅い髪は綺麗なお色をしているから遠目でもすぐに判った。長い旅を終えてからルーク様は何だか雰囲気が軟らかくなり私たちメイドにもとても優しくして下さるようになった。剣術の腕も上がって逞しくなられたことに旦那様は関心していらしたっけ。と少し前の出来事を思い出す。それからルーク様よりも、彼の隣を歩く人物を見た瞬間にからだが固まってしまった。


「隣にいらっしゃるのは…あちらの方はどなたですかね?」
「………あの人は」
「先輩?」


なんで、どうして彼がここにいるの。半年前にここを辞めて、自分の家を復興させるってマルクトに帰ったはずなのに。しかもあまりの忙しさにこっちには遊びに来れないとも聞いていた。(誰にだっけ。ルーク様?いや違う。そうだ、ナタリア様とルーク様が話してるのを聞いたってメイドの誰かが言っていたんだ)だからファブレ家にいるなんて有り得ないのに。さすがに会話は聞こえないけどルーク様は久々の再会に喜んでいる様子。やっぱり…やっぱりガイなの?


「ファーストネーム先輩、あの人と知り合いですか?」
「…まぁね。彼以前ここで使用人として働いてたの」
「まじですか?!あんな貴族っぽい人が?」
「れっきとした貴族よ。でもその頃は貴族だなんて少しも思わなかった」


本名はガイラルディア・ガラン・ガルディオス。私でも聞いたことがある。消滅したホド島を領土にしていたガルディオス伯爵家。ガイはその生き残り。


「身分を隠してたんですか?」
「さぁ。…私にはよくわからない」
「…ファーストネーム先輩、あの人のこと好きでしょう」
「?!な、に急に」
「だってずっと見てるし顔が赤いですよ?」


エリザに言われてそこで初めて彼を見つめていたと知る。慌てて否定してもエリザにはお見通しだった。分かってます、誰にも言いませんから、って笑われた。
大きな溜め息を吐いて顔を上げるとガイと目が合った。どうやらルーク様が私がいることを教えたらしい。ガイは私を見付けると挨拶の代わりに片手を上げた。



「え!!先輩??!」



いきなり走り出した私にエリザはすごく驚いていた。後を追ってくることはなかったがきっと何事かと思われただろう。私の名前を呼ぶ声がしたけど、動き出した私の足は私自身でも止められなかった。だって、あれ以上ガイを見ていたら心臓がどうにかなってしまいそうだったから。



伯爵様メイド


「なんだ?ファーストネームの奴」
「相変わらずで何より。ま、そういう訳だから」
「おーおー。メイドひとりの為に忙しい中わざわざバチカルまで来る奴なんてガイ、お前くらいだよ」
「しょうがないだろ?好きなものは手元に置いておきたいタイプなんだよ」


私はガイとルーク様がこんな会話をしていたなんて知る由もなく、今日彼が来た理由が、私をガルディオス家の専属メイドにさせる許可を得るためだったことや、ガイのメイドとして働くことになるのは、また別のお話。


(よぉ、久しぶりだな)
(ガガガガイ、ひ、ひ、久しぶり!!)
(どもりすぎ。それにしても顔見ていきなり逃げるだなんてなぁ、ファーストネーム?)
(う、あの…)
(……)
(…(笑顔がこわい))



12'0312
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