「ガイ、起きてる?」


部屋の扉をノックするが中からガイの反応は無かった。剣術の稽古に付き合ってもらおうかと思って来たんだけど、もしかしてもう寝ちゃったのだろうか。


「ガイ?入るよ?」


もう一度だけノックをして声を掛けながらドアノブを回した。ゆっくりと部屋に入れば、備え付けのベッドで眠るガイ。


「…こんな時間に寝てるなんて、」


珍しい事もあるんだ…。それもそうか。今日は戦闘に加え人目を避けるために険しい山道を重い荷物を持ちながら進んだんだもん、疲れてて当然よね。これで稽古に誘っていたらいつか疲労で倒れ兼ねないもの。
それにしてもガイの寝顔は初めて見る。譜業に夢中で遅くまで起きていて、先に寝るのはいつも私の方だから。


「………」


ベッドの端に腰掛ける。ほんと、綺麗な顔してるなぁ。男のくせにムカつくくらい整ってる。これで優しくて強いなんて、狡い。


「私ばっかりどんどん好きになってくよ…」


そう、ポツリと呟いた。





「もっとなれよ」
「え?、キャアッ!!」


突然凄い力で腕を引っ張られて身体がベッドに倒れ込んだ。視界に寝ていたはずのガイと、その奥に天井が見える。何が何だか分からなくて、ただ一つ言えるのは、ガイが私を馬乗りしているということだけ。手首はベッドに縫い付けられていて身動きも取れない。


「何するの?!放して!」
「ファーストネームがあんなこと言うからいけないんだろ」
「えっ?ガイ起きて、」


ニコリ。誰もが惚れてしまいそうな彼の笑顔。でも今の私にはそれがいたずらな笑みにしか見えなくて。


「い、いつから起きてたの??!!!」
「最初から眠ってなんていないさ」
「騙したのね!」
「人聞きの悪い事言うなよ。ただ少し休んでいただけさ。まさかファーストネームが来るとは思わなかったけどな」


ということは私の独り言は全部聞かれていたことになる。恥ずかしい。顔から火が出そう。穴があったら入りたい。


「それで?」


きっと真っ赤になってるであろう頬をガイの指が撫でる。それに大袈裟に反応した私。まるで彼の触れた場所に全身の熱が集まってくかのように、そこだけが熱くなっていく。


「なに、よ」
「知らないフリしても無駄だぜ?」
「言いたくない」
「さっきは言ったのに?」
「あ、あれは!……」
「あれは?」
「…」
「ファーストネーム」


ガイの顔がすごく近い。触れる手はそのままに、お互いの鼻がくっつきそうな距離。女性が苦手だったガイとはこんなに近付いたことはなくて心臓がバクバクと鳴る。


「イヤ…言いたくない」
「俺はちゃんと君の口から聞きたい」
「、」
「ほら」


優しいけど有無を言わさない口調。私を射抜くブルーの瞳。喋る度に当たる彼の吐息。どれもこれも私を酔わすのには充分だった。


「…ガイ」
「なんだい?」
「わたしは」
「…」
「わたしは、ガイのことが、好き…、んッ」


見計らったように食らい付く唇。手首を握る手はいつの間にか私の手を絡め取っていた。貪るように何度も何度も口付けを繰り返す。初めての経験に唇が離れる頃には肩で息をしていた。


「っは、はぁ、」
「言ってくれてありがとう。俺もファーストネームが好きだよ」
「…ッ!」


そう言ってガイは額にキスを落とす。何だか恥ずかしくてまともに顔が見れなかったので、背中に腕を回してガイにギュッと抱き着いた。



翻弄される
12'0209
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