今日の任務は最悪だった。どうして導師イオンの護衛を僕がやらなきゃならないのさ。ただでさえイオンとは関わり合いたくないっていうのに。ヴァンも分かってて命令するからほんと質が悪い。僕がアイツを守ってやる筋合いなんてこれっぽっちもない。極力顔を合わせないように護衛を師団の兵に任せ僕は後方で様子を見ていた。敵が出てきたら手を貸せばいい。そもそもみんなのイオン様を襲う身の程知らずはいないだろうけど。
案の定これといった騒ぎは何も起こらず任務は無事終わった。イオンは導師守護役(アニスとかいったっけ)とどこかへ消えた。特に何もしていないのにどっと疲れが押し寄せてきたので早々に兵を解散させた。それから一度自室に戻って報告書を作成し総長の執務室へと向かった。

ノックなしで部屋に入るとデスクで書類に目を通すヴァンと傍らに立つリグレット、更にその二人と向かい合うファーストネームの姿が。朝から見掛けないと思ってたらこんな場所にいたなんて。僕の補佐のくせに仕事しないで何してんのさ。


「シンクか」

「はい報告書。護衛の意味なんてまるで無かったよ」

「そう言うな、シンク。導師イオンをお守りするのも我々の立派な仕事の内の一つだ。ご苦労だったな」

「フン。…で?なんでここにファーストネームがいるのさ」

「わ、私は」

「彼女には昨日の夜から視察に行ってもらっていた。その報告書を出しに来ていたのだよ」

「ふーん。ならもう用は済んだね。行くよ」

「え、ちょっとシンク!あっ、し、失礼します!」


ファーストネームの腕を強引に引っ張り部屋から連れ出した。今は一刻も早く休みたかった。普段は導師護衛の任務に就いてもこれほどまでに疲労を感じることはない。でも今日に限って何故疲れたのか。それは、いつもいるはずのファーストネームがいなかったからだ。コイツは僕がイオンのレプリカであることを知ってる数少ない人間の内の一人で、こうゆう時のサポートには助けられているんだけどね。まったく。何が視察だ。


「今日は疲れたよ…」

「何か飲む?」

「…水」

「りょーかい」


自室に戻って仮面も取らずにブーツも履いたまま、着替えもせずベッドに倒れ込む。途端に睡魔が襲う。備え付けの簡易キッチンでコップに水を注ぐ音がする。徐々に意識が沈んでいく途中で「シンク、寝る前に着替えないと」とファーストネームの声が聞こえた。


「だいぶお疲れみたいだね。水飲める?」

「ん。…誰かさんが居なかったお陰で大変だったよ」

「こっちも大変だったんだよ?ロニール雪山で夜になると凶暴化して暴れまわってる魔物の視察及び調査。しかもラルゴ様と二人だけで」

「そっちのが簡単だよ」

「でもまぁ、任務があるって分かってたら視察なんて行かなかったけどさ」


ファーストネームは慣れた手つきで仮面を外しテーブルに置いた。素顔を見られるのは嫌いだ。だけど彼女だけにはさらけ出すことが出来る。それはファーストネームが、僕を導師のレプリカだからと同情するんじゃなくて、僕をシンクという人物として見てくれるからだ。そう感じることが出来た時、僕はほんの少しだけ自分を好きになれる。


「次黙って違う任務に行ったらシバくから」

「うん、もう行かない。約束する。シンクは寂しがり屋だからね」

「一言余計だよ」

「今日はもう任務ないんでしょ?少し休みなよ。残りは私がやるから」

「いいよ。アンタも疲れてるんだろ?それぐらい僕が、」


言い切る前に、トン、と人差し指で目の下の隈を軽くつつかれた。最近寝てないんでしょ。言われてそういえば最近ろくに寝てなかったことを思い出した。


「いーからシンクは寝る!はい横になって!」

「なっ、」

「たまにはゆっくり休んでよ。師団長様?」

「やめてよ気持ち悪い」

「あはは!それじゃあね、おやすみ」


ファーストネームは書類の束を抱えると部屋を出ていった。間もなくやってきた睡魔。疲れなんてとっくに無くなっていたけど、少しだけ寝よう。気が付けば心はいくらか穏やかになっていた。なんだかよく眠れそうだ。そう思った次の瞬間にはもう深い眠りに就いていた。


「おやすみ、シンク」



どうか素敵な夢を
12'0223
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