「平助君って、太陽みたいだよね」

いつも通り屋上でお昼を食べていると、彼女の名前が何の前触れもなくこの様なことを言ってきた。それを聞いた俺はというと、さっき自販機で買ってきたフルーツ・オレを盛大に吹き出してしまった。

「うわーばっちぃ」
「急に何言ってんだよ!!」

俺は名前から差し出されたハンカチで口元と制服に飛び散ったフルーツ・オレを拭き取る。名前は弁当に入っている玉子焼きを食べながら「クラスの女の子がね、」と言葉を続けた。

「平助君は太陽みたいだって言ってた」
「俺のどこが太陽だって?」
「明るくて元気で笑顔がお日様みたいなんだって」
「…そんな奴他にいっぱい居んだろ」
「それ聞いて私も平助君は太陽みたいだなって思った」
「〜〜〜っおまえなぁ!」

笑顔が太陽みたいだなんて産まれて初めて言われた言葉だ。世の中では“花のような笑顔”とか言うみたく、そんな形容で自分がそんな風に思われているとは。しかも名前にまで言われたからには顔に熱が集中してしまって仕方ない。一人慌てる俺をよそに黙々と弁当を食べる名前。とりあえず落ち着こうと、ふー、と息を吐いた。

「それに比べて私は“笑いもしないし氷のような性格だ”って言われた」
「おまえそれ…、」

いじめじゃん。言いかけた言葉は喉を通らることなく飲み込まれた。原因はきっと俺にあると思うから。

「私は全然平気だよ」
「……名前だってちゃんと笑うのにな」
「平助君を好きな子はたくさんいるから仕様がないよ」

名前は馬鹿騒ぎする俺とは違ってとてもクールだ。だから俺と名前が付き合うのを快く思わない女子たちから嫌がらせを受けることもある。そいつらに言ってやりたい。名前はちゃんと楽しい時には笑うし、人に気使えるし優しいし友達想いだ。こうやってショックを受ける程繊細なのに、何も知らねー奴が勝手なこと言いやがって。

「俺が太陽なら、そしたら名前は月だな!」
「月?」
「ああ!」

不思議そうな顔をしている名前は弁当の具をまた一つ口に運ぶ。

「月はな、太陽の力を借りて白く輝いて夜の暗闇を照らすんだぜ??」
「…それってつまりは月は太陽がなきゃただの球体なだけだよ。私ってそんななの?」

眉間に皺を寄せる名前には俺の言いたいことは伝わっていないらしい。違う、そうじゃないんだ。

「違ぇって!俺が言いたいのは、もし俺が太陽なら月のおまえを今よりもっと輝かせてやれるって意味だよ!」
「今より…?」
「名前は笑わなくも、冷てー訳でもねーよ。おまえの良さを何も知らないそいつらが馬鹿なだけだ!」
「へいすけ、くん」
「だから俺が名前の全てを照らすから。そんで、俺にはおまえが一番似合うんだってことをみんなに思い知らせてやるんだ!」

名前は俯いたまま何も言わなかった。なんか俺ひとり盛り上がってなんだか恥ずかしいじゃねぇか。頼むから何か言ってくれ!

「私の為にそこまで…。平助君は馬鹿だよ」

名前はそう言うと、微かに笑みを浮かべて顔を上げた。おまえの為に言ったのに馬鹿なんて酷すぎやしねーか?名前はそうゆう奴だから別にいいけど。

「おまえなー…」
「ありがとう」
「へ?」
「私を月って言ってくれてありがとう」
「…!!」

次にきみが浮かべたその笑みは、“月のような”綺麗で優しい笑みでした。



ヘリオスの光をきみに


御題拝借:HENCE
(110309)
ヘリオスというのは古代ギリシャ神話に出てくる太陽神のこと。こう見えてギリシャ神話大好きなんですわwww
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