―――少女が人生でたった一人愛した男は、口元に確かに笑みを浮かべ愛してる。そう呟いた。そんな男に少女は手を伸ばす。それ程距離はない筈なのに、手を伸ばしても伸ばしても男に手が届くことはない。不安になった少女は男の名を呼んで、更に手を伸ばす。今度は男も少女に手を差し伸べる。そして男と少女の手が触れようとした瞬間、――― 「――ッ!!!」 目を覚ましたことで自分が今まで夢を見ていたのだとようやく気付いた。長い間夢を見ていた様な気がする。けどそれは気のせいで、眠りに就いてからまだ一刻しか経っていなかった。 あそこまで鮮明で夢と現実の区別がつかなかったのは、きっと夢に出てきたのが彼女の恋人だからか、それとも…。 一向に収まらない身体の震えに、ギュッと自分自身を抱き締めるた。 「名前。未だ起きているのか」 「、はじめ…ッ」 そんな時に聞こえた大好きな声。咄嗟に出したそれはとても切羽詰まった様な声だった。 その普通じゃない様子をすぐに察した一は襖を開けて部屋へと入る。布団にうずくまる彼女に駆け寄った。 「どうした、名前」 「はじめ…、はじめ!」 「何があった」 「ふっ、うっ…」 一は、嫌な夢でも見たか?と背中をさすりながら優しく問いかける。嫌な、夢だった。有り得ない夢なのに何故か現実味を帯びていて、だからなのか。一を見れて声も聞けたのに、未だに震えは止まらない。 「夢、見て、」 「ああ」 「私と一が、いた、の」 「そうか」 「だけど…いなかった…。いたの、ちゃんといたはずなの…!一に触れようとしたの、そしたら、」 「そうしたら?」 「そしたら…」 ―――その手が触れようとした瞬間、男は指先から砂と灰と化し、居た筈のそこから居なくなってしまったのだ――― 「……」 「夢か現実か、分からなくなって、恐かった」 「…大丈夫だ。俺は今もこうして名前の傍にいるだろう。そしてお前を残し消えるなど有り得ない」 「夢で良かった」 「…そうだな。疲れただろうからもう寝ろ」 「うん、おやすみ、一」 再び布団に潜った名前の頭を撫でてやると、すぐに寝息が聞こえてきた。表情はとても安らかの様だ。今度はきっと大丈夫だろう。 一は最後にもう一度頭を撫でてから立ち上り名前の部屋を出ていった。 羅刹である自分にどのくらいの時間が残されているのかはわからない。羅刹の末路と彼女の見た夢が本当だとしたら、未来はそう遠くないのだ。ただの悪夢であれば良いのに、そう思わずには居られない。 それはまるで未来を暗示する悪夢 『無限だと思われた羅刹の力は決して無限にあるのではなかったのだ。治癒力に長ける代わりに、自分が生涯時間をかけてゆっくりと使ってゆく生命力を削っていくのだという。寿命を使いきった羅刹は最後灰となって跡形もなく消えてしまうそうだ』 110226 シリアスやっほい\(^o^)/ |