秀吉様が家康に殺されてから三成は憎悪と復讐の念に囚われてしまった。寝る間も惜しみ、ろくに食事も取らずただ家康への憎しみを募らせていくばかり。私には裏切るな、の一点張りで。復讐は何も残らないとどれだけ言っても三成には伝わらない。それどころか、更にそれは増えた。もう彼を止めることは出来ないのかと吉継に尋ねても、奴はああでしか生きられぬ、といつもみたく笑うだけだった。それじゃ駄目なの。家康を殺したとしても秀吉様は戻らない。きっと彼に残るのは、虚無。家康を殺すために生きている三成は、家康を殺すことで生きる意味を失う。そんなの、悲しすぎる。だから私は、彼を、三成を、救いたいの。

「名前」
「………三成」
「明朝に城を出る。出陣の準備を調えておけ」

部屋にやって来た三成は短く用件だけを伝えると踵を返して部屋から出ていった。殺すことしか考えていない目が、助けてと言っているように見えた。辛いと心が叫んでいるようだった。でも私には、彼を想って涙を流すことも出来ない。
夜明けは、もうすぐそこ。



そろそろ夜が明ける頃、城の正門前に三成と吉継と私を先頭に、兵士たちが列を成す。誰も話すことはなくただ前方を見据えている。三成は吉継何かを話した後、太陽が昇ったと同時に足を進めた。

三成の隣を歩く私の足は鉛のように重たい。

「三成、戦なんてやめよう?」
「何を言っている。家康を殺す好機を逃す訳にはいかない」
「家康を殺すのは秀吉様の仇を取ることではないわ」
「私は私から全てを奪った家康が憎い!」
「憎悪と復讐に囚われては駄目よ三成」
「私の邪魔をする気か」

そう言った三成が私には送る視線は怒り、悲しみ、…愛しみが混ざり合ったようなもの。それに私は胸が締め付けられるような気持ちになった。

「そんな、邪魔しようとなんてしてない」
「裏切ることは許さない」
「……三成…」
「嫌なら城に戻れ」
「…帰らない。でも私は三成に家康を殺すんじゃなくて」
「くどい」
「…―――」

私がしつこく言うのは、きっと分かってくれると願っていたから。家康を殺さないでと言うのは、彼の心を軽くしてあげたかったから。だけど、三成の意思は固かった。もう涙も出ない。






私も彼も、きっと救われない。


110419
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -