「今…何て?」 「聞こえなかったのかい?君はもう豊臣にとって不要な存在だと、そう言ったんだ」 「そんな…っ」 彼女の目はまるで絶望に近いそれ。瞳に僕を映しているが実際は僕を見ていない何処か遠くを見ている、そんな目。 もっと泣き叫ぶかとも思ったけど、彼女ももう子供じゃない。ただ静かに立ち尽くすだけだった。 「半兵衛様…、この前まで、私は豊臣に必要だと仰ってくれてたじゃないですか」 「…君はそれを本気で信じていたのかい?」 「え、」 「君みたいに取り柄の無い子を、僕、ましてや秀吉が側に置いておくとでも?」 「で、も」 「上手く利用させてもらったよ。戦では役に立たない君も、近隣国への密偵だけはどの忍よりも隠密に行動してくれたしね」 「全て、嘘だったのですか…」 「…ああ、そうだよ」 体を支えられずに膝から崩れ落ちた彼女は、「うそ…、」とポツリと呟いた。僕はそんな彼女の前に片膝を立てて視線を合わせた。 「なら…私に言った、愛してるも、あれも嘘なのですか」 「……全部、嘘だよ」 「ッ酷い!私は、こんなにも半兵衛さんがっ」 「馬を一匹あげよう。それに乗って、君の故郷にでも帰りたまえ」 「半兵衛さん、私はっ」 見張りに立たせていた兵士に手で合図をする。兵士は彼女の腕を掴み部屋から引きずり出す。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 「半兵衛さんッ!」 「名前、もうさよならだ」 城の一角から外を眺める。馬のたずなを引く名前。さっきのあの顔が忘れられなくて、散々見たはずの笑顔も何故か思い出せなかった。 むせ返るような苦しさに服を強く握り締めた。愛してないだなんて嘘だよ名前。豊臣に必要ないだなんて、嘘に決まってるじゃないか。君の全てが僕の支えだった。笑顔を見たら僕も幸せな気持ちになった。泣き顔を見れば守ってあげたいとも思った。本当はこの先永遠に共にありたかったんだ。 けれどこの病魔が僕たちの未来を邪魔した。死ぬと分かっている僕の側に居ては辛くなるだけ。だから、名前を僕から遠ざけた。悲しい思いをするのは僕だけで十分だ。 名前、君は僕の事を忘れて幸せになって。どこかで君が笑って暮らせていたら僕はそれだけで幸せだから。 こんな形でしか君を愛せなかった僕を許してくれ。愛してるよ名前。誰よりも何よりも。 僕は最後になるだろう彼女の姿をこの目に焼き付けて部屋を後にした。 これが僕が君についた最初で最後の嘘でした 110206 ヒロインの幸せを願う半兵衛さんでした。次は幸せな話を書いてあげたいです。 |