時は夕刻。もうすぐ夕日が沈み夜が訪れる。真っ赤な太陽に照らされて辺りは同じく赤に染まる。


「ゆーきーむーらー」

「何で御座るか」

「ちゅーして」

「なッ!此の様な場所で其の様な事!破廉恥で御座るぞ、名前!」


突然の発言に心底驚いた表情を見せた幸村。先日彼とやっと恋仲になれたのだが、彼は初だからまだ接吻すらしていない。それどころか手がちょっと触れ合っただけで「済まぬっ!」と、これまた顔を真っ赤にして謝る。その時の赤さといったら、彼自身の服に負けないくらいの赤だ。
幸村の性格は理解しているつもりだ。けど、私だって恋人らしい事の一つや二つしたいもの。


「………」

「な、何だ」

「幸村は、私とちゅーしたくないの?」

「んなッ!!」

「私は、したい」


思わず俯く。こんなんで落ち込んだりして、馬鹿みたい。時間がかかることなんて百も承知で彼と付き合ったのに、幸村への思いと、彼に対する欲ばかりが増えてゆく。そんな自分が嫌だ。


「なーんてね!嘘だよ、嘘。困らせてごめ…、」


知らぬ間に膝の上で作っていた拳の上に彼の手がゆっくりと乗せられた。驚いて顔を上げると、夕日に照らされた彼の顔があった。心なしか顔が赤い気がしたけれど、それが夕日の所為なのかそれとも本当に赤いのかは分からなくって。


「名前は」

「…」

「名前は、」

「私が…何?」

「其と、っその」

「?」

「せっ、接吻がしたいと、そう申すのか?」

「…うん。だって私たち恋人でしょう?私は幸村と恋人同士しか出来ない事、しないなって思う。…幸村は違う?」


私の手を包むそれが微かに震えているのは、きっと幸村が緊張しているから。前に、私の前だと思うように出来ないと言っていたのを思い出した。


「其も名前と其の様な事をしたいと思っている!だが、いざお主を前にすると、思うように動けなくなる」

「幸村、」

「―――名前」

「は、い」


戸惑った瞳が、一瞬の内に見た事のない真剣なものに変わった。雰囲気に圧されて私も思うように動けなくなってしまった。


「先程のような名前の顔は見たくない。だから、だから」

「……」

「接吻しても、良いか」

「っき、聞かないで…恥ずかしいよ」

「それは此方も同じで御座る!で、では、目を閉じてくれ」

「う、うん」


目を閉じて間もなく彼の手が頬に宛てられてびくっと肩が揺れた。きっと今の私の顔は夕日に負けないくらい赤いだろう。どうか、彼に気付かれませんように。



夕日に溶ける

初めて触れた彼の唇は、とても熱かった。


幸村って絶対奥手だと思う(今更)
彼女のが積極的って、男としてはどうなのかな?頑張れ、幸村!(笑)
110204
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