「きっと、これが僕にとっての最後の戦になるだろう」
「半兵衛…」

白くて大きな手が、名前の頬をスルリと撫でる。ほんの数日前まで温かいと思っていた掌は異常な程冷たかった。
それがまるで彼の未来を暗示しているようで、少しでも温めようと強く握りしめた。

「名前、君は僕の代わりに秀吉を支え、豊臣の未来を切り開いていって欲しい」
「…嫌よ。だって、今も、これからも秀吉様には半兵衛が必要だもの」
「ははっ、それは光栄だ」
「だから、最後だなんて言わないで」

半兵衛が困ったよう笑った。見なくても分かる。私と半兵衛は恋仲である前に幼なじみで、昔から同じ時間を過ごして来た。秀吉様と出会ってからも、彼は軍師として、私は豊臣軍総隊長として同じ志を掲げて共に進んでいたのだから。

「僕はもう長くない。名前もそれは分かっていた事だろう?」
「……」
「名前」
「それとこれとは話が別だよ…。半兵衛は、死ぬと分かっていながら、戦に出るだなんて、怖くないの?」
「怖くなんてないさ」
「ッ?!」
「だって、これで秀吉は天下を統一する。やっと僕の、僕らの夢が叶うんだ」

だから、怖くない。半兵衛は穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。胸が、キュッと詰まって、息苦しさを感じた。
死ぬのが怖くないだなんて、半兵衛はこの戦に死にに行くの…?今まで延命の治療をしてまで、この日の戦で散りたかったと、そう言うの?
知らず知らずに涙が頬を伝う。私はこんなにも半兵衛が死んでしまうのが恐ろしくて仕方がないのに。

「死は怖くないさ。けれど僕が恐れているのは、他にある」
「……?」

半兵衛は空いた手で私を引き寄せて抱きしめた。頭を撫でる彼の手は、いつも以上に優しくて更に涙が溢れた。

「僕が怖いのは、名前、君を残して死んでいくことだ」
「……半兵衛ッ」
「ずっと君の笑顔を見ていたいと今でも思っているんだ。君を一人になんてしたくないよ」
「ふっ…う、」
「ねぇ名前、…僕の頼みを聞いてくれないかい?」

止める術を失った涙は頬を顎を伝い半兵衛の服に染みを作る。私を抱く腕の力が更に強くなり、胸に顔を押し当てられる。

「君の笑顔が見たいんだ」
「はんべ、」
「お願いだから、名前、泣かないでくれ」

ドクン、ドクンと、心臓の音が聞こえた。半兵衛は生きてる、生きて、いるというのに。





そして、私は願った

未来の私の隣に、どうか、貴方がいますようにと、

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