春が来ていつの間にか夏が訪れる。暑かったはずなのに気付けば秋になっていて、あっという間に冬になった。どんなに季節が巡ろうと、たくさんの時間が過ぎようと、いつも僕の頭の中を占領するのは大好きな君で。もう居ないのに。会えないのに。君を探す僕がいた。彼女は一年前に死んだんだ。僕の手で、君を、殺した。

京の町の茶屋の娘だった君は、巡察の休憩がてらにいつも寄る僕たちを怖がりもせずに笑顔で接してくれる人だった。怖がられる事が僕らにとっての“普通”なのに、君はそれは“普通じゃない”と言う。貴方たちは町を守ってくれてるんだからむしろ称えるべきでしょう、と。
僕は暇さえあれば彼女の下へ訪れた。それはそれは飽きずに。屯所での面白い話をすれば楽しく笑い、故郷を懐かしんで遠くを見ていれば隣で優しい表情をしていたり、たまに酷い怪我のまま会いに行けば泣きそうに怒った。黙って手を握れば握り返してくれて。僕が彼女が好きなんだと思う。じゃなきゃこんなに満たされたりはしない。きっと彼女も僕が好きだ。でも口には出さない、お互いに。それでも良かった。言葉にしなくても僕たちは心で繋がっていられたから。

ある日。また同じように君に会いに行った。だけどそこには君の姿はなくて。それどころかひとひとりいなかった。僕は君の名を呼んだ。
返事の代わりに首筋に触れた冷たい感触。動かないで、と絞り出された声は、僕が聞きたかったもの。だけど、聞きたく、なかったよ。

何で。とは聞かなかった。僕は知っていたんだ。この茶屋を薩長の連中がよく出入りしていて、君から情報を仕入れていたということを。

「殺さないの?」
「…っ」
「ねぇ。君にとって僕は、新撰組は敵なんだよ」

君に僕は殺せないって分かってて聞く。カタカタと震える手は徐々に下へと下がり、刀はすり抜けて地面に落ちた。僕は刀を抜いて振り返った。君は泣いていた。初めて見る君の泣き顔。…出来れば見たくなかったけど。
もう、こうなってしまった以上、彼女を生かしてはおけない。殺したくない。殺せるはずがない。好きなんだ。何よりも、誰よりも大切にしたいと思った。でも殺さなきゃならない。失いたくなんかないのに。
それでも組織で動く者として一個人の感情で動くわけにはいかなくて。僕は殺す。感情を。

血飛沫が舞う。倒れた彼女は動かなくなった。僕は人形のように何も感じることは出来なかった。心なんて要らないのだから。僕は君を殺したことで僕自身も死んでしまった。君と一緒にこの場所で、僕は死んだんだ。


あ の 日 の 僕 が 何 度 も 何 度 も 問 い 掛 け て く る ん だ 。
ど う し て 僕 を 殺 し た の っ て 。


流れた涙は誰の為のものなのか。


title / 告別
111013
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