俺の彼女は、学年、いや学校でも可愛いと有名な女の子だ。可愛いだけじゃなく、優しくて意外にしっかりしてて料理が出来るなど女としての魅力がたくさんある(俺談)。そんな彼女の名前は沖田名前。ガキの頃からの幼なじみ兼、 「へーすーけくーん」 俺の目の前でパイプイスに座って腕を組むこの男、剣道部三年沖田総司の最愛の妹。俺は厄介な男の妹の彼氏になってしまった厄介な男だ。ちなみにいま俺は総司の目の前で正座させられている。 名前と幼なじみならば総司とも同じ関係なわけで、こいつが名前をどんだけ可愛がっているか嫌でも知らされているし、沖田総司がどういった人物であるかも充分理解している。理解してるからこそ敵には絶対に回したくない、んだ、けど、 「なんだよ…総司」 「僕の名前と付き合い始めたらしいね」 僕の、を強調するあたり相当ご立腹な様子。昔から名前の周りをうろちょろする害虫共を駆除してたのは総司だ。それなのによりによって俺に名前を取られるなんて思わなかっただろう。俺は、総司の黒い笑顔に頬が引きつった。 「わりーかよ」 「そりゃあね」 即答かよ。ああそーですか。それよりいい加減解放して欲しい。テスト明けの久しぶりの部活なのに俺は総司に掴まったまま準備体操もしてない。総司はついさっき足を捻挫したらしく足首に氷を詰めたビニールを当てていた。ちょっと離れた所ではタメの奴らが「総司先輩こえーな」「平助の奴なにやらかしたんだ?」「名前と付き合ったのが原因じゃね?」と騒いでいた。俺だって好きで正座してるんじゃねーんだよ!ったく面倒なことになっちまった。チラッと顧問と話すマネージャーの名前を見る。きっと総司の怪我の事でも話してるんだろう。なかなか気付いてくれない。ああ早く気づいてくれ名前。総司から俺を救ってくれるのはお前だけなんだ…! 「厭らしい目で名前を見ないでくれる?」 「見てねぇよ!」 「本当かな」 はぁって大きなため息。吐きたいのはどちらかと言えば俺の方だ。足の感覚が無くなってきた頃。お兄ちゃん、と総司を呼ぶ声がした。総司をお兄ちゃんと呼ぶ奴はひとりしかいない。俺は顔を上げた。 「どうしたの名前」 「土方先生とこれから病院に行ってきて」 「えー。何で土方先生?名前でいいじゃん」 「私は部活を任されたから。それと、あんまり平助いじめちゃ駄目」 「別にいじめてないよ」 「嘘つけ」 「ん?何かな平助」 「何でもない」 総司の制服と荷物を取りに行ってくると去った名前。二人の間に微妙な空気が流れた。総司はもう一度ため息を吐いて、名前がああ言うから君をいびるのは今日はこれくらいにするよ、と言ってそれから土方先生に病院に連れていかれた。やっと部活が出来る。立ち上がってから足の痺れがに苦しめられたのは言うまでもない。 ―― 「平助ごめんね」 部活が終わって一緒に帰っていた名前が突然謝った。何がと問えばお兄ちゃんが…と言った。 「あー…別に大丈夫。昔から総司にはいじられてっから慣れてるし」 「お兄ちゃん私には昔から過保護で」 「よーく知ってるよ」 「今も変わらないんだもん。いつまでも子供じゃないのに」 そう言って頬を膨らませる名前は俺から見ても子供っぽいと思う。特に今の膨れっ面なんてまさにそうだ。 「でも平助じゃなきゃ、きっとこうなる前にお兄ちゃんが追い払ってたよ」 「…は?」 「え?だから、多分お兄ちゃんには私が平助をずっと好きだったこと、多分バレてた」 「……」 自分で言って顔を赤くして俯いた名前は耳まで真っ赤になっていた。それが凄く嬉しくて名前の手を握った。ゆっくりと顔を上げた名前にキスをした。あーまじ可愛い。そして、名前を抱き締めようとした時だった。何してんの、と後ろから声がした。 「げ、総司」 「お兄ちゃん」 「今の反応は酷いな平助」 「うっせ」 「足は平気なの?」 「うん。軽い捻挫だって。安静にしてればすぐに治るよ」 自分の足を心配する妹に、総司はまるで俺が見えていないかのように振る舞う。 「土方先生は?」 「途中で車下りてきた」 「そっか」 「じゃあ帰ろうか」 「え、ちょっとお兄ちゃんゆっくり歩きなよ」 ついには名前の背を押して歩き出した。名前も名前で総司の足が心配で俺はすっかり放置プレイ。まあ、いつものことだからいいんだけど。…いややっぱよくないし!! 「おい総司!俺を置いてくんじゃねぇ!」 「ああ、そうそう平助」 「な、なんだよ」 「名前と付き合うのは仕方がないから許してあげる。だから、」 隣を歩く俺を見下ろして、総司は言った。 「僕のことは“お兄さま”って呼んでね」 お兄さまとお呼びなさい 「お兄ちゃんなに言ってんの?」 「これぐらい普通だよ」 「そうなの?」 「…」 平助君夢か沖田さん夢なのかわからなくなった。とりあえず平助君夢ってことですみません許して← (110406) |