いつもの時間にいつものカフェのいつもの席に僕は今日も座った。

「おばさん、いつものアレお願いします」

もう顔馴染みとなったおばさんに注文をする。アレとはホットコーヒーのこと。はいよと笑って頷いたおばさんはカウンターにコーヒーを入れに戻っていった。土曜日なのに4時過ぎの店内はとても静かで、有線から流れるオルゴールが心地よい。とくに何もすることのない僕は、窓から右に左に忙しなく動く人混みをただぼーっと見つめた。カチャっと食器の擦れる音がして視線を戻すと、おばさんが入れたてのコーヒーを僕の前に置いてくれたとこだった。

「ありがとうございます」
「何か食べるかい?」
「いや、今日は大丈夫です」
「そう」

伝票をテーブルに置いておばさんは去った。コーヒーの入ったカップからは湯気が立ちいい香りがする。一口飲むと口の中に味が広がってゆく。ここのカフェはコーヒーがとても美味しいから好きだ。
僕がこのカフェの存在を知ったのは今から三ヶ月くらい前になる。僕は学校の廊下ですれ違った名前も知らない女の子に恋をした。友達と楽しそうに笑ったその表情に目が放せなくなって、ずっとその子の事が、あの笑顔が、頭から離れなくて授業中は上の空で先生に注意されてしまうほどだった。後日彼女が名前ちゃんという名前だということを知った。僕の隣の隣のクラスだということを、彼女のことを知っているというクラスの男の子に聞いて、僕の知らないことを知っていた彼に激しく嫉妬をしてしまう僕は僕らしくないと自分で思う。そして彼女がこのカフェでバイトをしてると知り、どうしても彼女に近づきたくてこうして何度も通っているんだが、なかなかタイミングを掴めずにいる。
5時になってこんにちは、と入って来た人物に僕は顔を上げた。名前ちゃんだった。平日は学制服のまま仕事をしている名前ちゃんは、土曜日だけ私服でやって来る。見慣れない服装に僕の視線は釘付け。今日も可愛いなぁ。そう思っていると何度かおばさんと言葉を交わした名前ちゃんがこっちを向いた。と思ったら顔を真っ赤にして奥へと駆け込んでいった。……何あの反応。おばさんに何を言われたんだろう。ケラケラと笑うおばさんは僕を見てから笑いが一層増したようだ。

「あ、あの、」

二杯目のコーヒーが冷めた頃、何をする訳でもなくただじっと外を眺めていた僕は可愛らしい声に振り向いた。そこには、私服に黒のエプロンをかけた名前ちゃんが立っていて、正直、驚いた。今まで僕からしか話しかけた事がなかったし、まさかバイト中に、それも彼女から声をかけてもらえるなんて思っていなかったから。

「なあに」
「えっと…、いつも来てくれてますね」
「うん。ここのコーヒー、好きなんだ」
「そうなんですか?ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」

本当に嬉しそうな顔をして笑った名前ちゃん。僕もつられて笑顔で返すと名前ちゃんは頬を少し染めて視線をずらした。さっきといい今といい、この反応、まるで、

「あのさ。名前ちゃん」
「え、あの、なんで名前、」
「んーなんでだろうね?」
「う、え、え?」
「あはは!焦りすぎ」

湯気が出てきそうなくらい赤く染まった名前ちゃんの顔。可笑しくなって僕は笑った。名前ちゃんは両手で顔を隠した。この反応は期待してもいいのかな?名前ちゃんも僕と同じ気持ちだって自惚れてもいいのかな?

「明後日。また名前ちゃんに会いにくるから、楽しみに待っててよ」
「…はい、待ってます」

きっと勘違いなんかじゃない。僕が君を想ってるように、君も、僕を、


片想いタイムリミット

君のことが好きなんだ。
目を大きく見開いた君の返事はイエスだと信じてる。


御題拝借/たとえば僕が
(110405)
決してストーカーではない。純粋な恋だ。
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