※現代


布団に入ったのは日付が替わる30分前のこと。なかなか寝付けなくて何度も何度も寝返りを繰り返す内に、もう夜中の二時になってしまっていた。いつもは布団に入ると割とすぐに寝てしまう方なんだけど、今日は全然眠くない。珍しいこともあるんだなぁと思った。

さっきまで最愛の彼女の名前とメールをしてたけど、どうやら寝てしまったみたいで携帯は鳴らないまま僕の手に握られている。元々夜更かしはしないらしいから、きっと僕の返事を待ってる間に睡魔に負けてしまったのだろう。返信の文字を打つスピードは早かったはずなのに。
毎日学校で会って、毎日電話して、電話が終わってからもメールをしてるのに、会いたいと思ってしまう。声が聞きたいと思ってしまう。笑った顔が見たくて君に触れたくて。


「電話…しちゃおうかなぁ…」


でも今は草木も眠る午前二時。こんな時間に電話をかける程僕も非常識じゃない。名前も寝てるだろうし起こすのは可哀想だ。けど無性に声が聞きたかった。一言でも聞けたならそれで僕は満たされるのに。
名前の電話番号を画面に開いたまま葛藤を続けること数分。ゆっくりと通話ボタンを押した。マナーモードにしてない限り気付いてくれるだろう。コール音が数回聞こえた後、いつもよりいくらか低い眠そうな声が電話口から聞こえた。


『もしもし…?』

「もしもし、名前?」

『総司…?』

「そうだよ。こんな時間にごめんね」


「大丈夫だよ」と言う声は特に不機嫌な様子はないことに一安心。不躾なことをした僕を彼女は怒るどころか突然の電話を快く受け入れてくれたようだ。


『どうしたの?』

「いや、特に用はないんだ」

『そ?…あ、メールごめん』

「いいよ。気にしないで」


電話の向こうであくびの音が聞こえる。やはり掛けるべきではなかっただろうか?起こさないで朝までゆっくり眠らせてあげるべきだったのかもしれないと、今更電話をしたことを後悔したって遅いけど。こうした僕の行動に多少の疑問を抱いた彼女はだんだんハッキリして来た意識でもう一度僕に問いかける。


『ほんとに何もないの?こんな時間に電話するくらいだもん。何かあったんでしょ?』


名前は変な所で勘が鋭い。人の心情を察するのが上手いのか、ただなんとなくそう思うのかは分からないけど。


「……声が」

『声?』

「無性に名前の声が聞きたくなったんだ」


もしかしたら、こんな時間にたったそれだけの事で?とか思われたかもしれない。己の欲を満たすためだけに睡眠を邪魔されて、イラついてきているのかも。そんな僕の思考は名前の声で遮られる。


『だから電話したの?』

「うん。…ごめん」

『謝らなくていーよ。私も総司の声聞けて嬉しいから』


その声だけで彼女が笑うのが分かった。

ああ、僕はそれだけのことでこんなにも満たされる。


午前二時、君の声が聞きたくなった


御題拝借:確かに恋だった
(110317)
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