控え目に扉をノックし自らの名を名乗れば中からパタパタと可愛らしい足音。カチャ、と音を鳴らして顔を覗かせた人物に向かって私は笑い掛けた。



「名前っ!」
「ご機嫌麗しゅう、紅玉姫」



煌帝国第八皇女、練紅玉様である。
紅玉様は嬉しそうに私の手を取り早く、早く!と部屋へと招いて下さった。
待女に紅茶を用意してもらうよう頼み、私たちはテーブルに向かうようにして席に着く。すぐに紅茶が運ばれてきて、目の前にカップが置かれた瞬間ふわっと良い香りが鼻を掠めた。これは私の好きな茶葉だ。



「良い香りですね」
「貴女がこの紅茶が好きだって聞いたから夏黄文に用意させたのよ。気に入ってくれたかしらぁ?」
「もちろんです!ありがとうございます」



お礼を述べると紅玉様は頬をほんのりピンク色に染めて笑う。とても可愛らしいその姿に私も頬が弛んだ。紅茶を口に含み独特の味を堪能する。私のために用意してくれたのもあるだろたう、いつもより美味しい。
この国の神官であるジュダルの幼馴染みであるだけで何の地位もない私だが、昔から紅玉様とは仲良くさせてもらっている。お互い友達がいないという共通点から遊ぶことも多く、こうして二人の時もあればジュダルを含む三人でお茶したりもする。もっともジュダルは紅玉様との鍛練を好むのでそれを遠目で傍観していることのが多いかもしれないが、二人の時は決まってやることがあった。



「ねぇ!さっそくお願いしてもいいかしら?」
「はい」
「名前の占いはよく当たるのよねぇ」



実は私は占いが得意だ。と言っても魔法とかそんなんじゃなくて、タロットカードを使った原始的な占いである。懐から真っ白なカードを取り出し、それをテーブルに数枚並べて紅玉様の手を私の手に重ねてもらう。この時もカードは白いまま。



「今日は何を占いますか?」
「そうねぇ…じゃあ、私の未来を占ってちょうだい」
「分かりました。では姫様の魔力を私へ」



私のタロット占いは他と違い、相手の魔力をもらうことで成り立つ仕組みになっている。私の魔力で行えないのも関係しているが、占う人物の魔力を使用することによってより占いが当たりやすくなるのだ。
紅玉様から受け取った魔力をそのままカードに送り込み、カードにハッキリと絵柄が浮かび上がったら終わり。ここからは普通のタロット占いと同じように進めていく。



「では結果を発表しますね。いつも申し上げておりますが、これは数ある未来の内の一つとしてあまり深くはお考えになりませぬよう」
「ええ、わかっているわ」
「では……。姫様は、そう遠くない未来、何らかの理由で他国に赴くことになるみたいです」
「他国?煌から出るのぉ?」
「旅行か外交かは分かりませんが、どうやらそのようです。そしてそこでの新たな出会いにより姫様の運命は大きく変わるでしょう。うーんと…これは恋、のマークが出てますね」
「こっ、恋?!」



途端にあたふたして顔を真っ赤に染める紅玉様。彼女も年頃の女の子なのだからやはり恋にはかなり敏感なようだ。私と年も近いというのに姫様の方が全然女の子らしい。微笑ましく見つめていると紅玉様は赤い顔のまま、ジーっと私を見つめる。



「?何でしょう?」
「名前は私と年も変わらないのに何故そんなに落ち着いているの?」
「そう、ですか?」
「そうよぉ!落ち着いた大人の女性みたいで羨ましいわ!」




ぷりぷりと頬を膨らませ怒る姿もとても愛らしい。しかし姫様は、私が貴女のような可愛らしい女の子になりたいと思っていることを気付いていない。ちょっとした仕草や言葉遣いに溢れる気品さを、私はどんなに頑張っても出せないだろう。どうやら私たちはお互いを羨ましいと思っているらしく、どこまでも似た者同士であることにホッとする自分がいた。



「そんなことありませんよ。姫様は私にはない素敵なところがたくさんありますから」
「名前の方こそとっても魅力的ですわ。だって私の友達ですもの!」
「ふふ。ありがとうございます」



それから占いを終えた私たちは話に華を咲かす。紅玉様との話は飽きないから、つい時間を忘れてしまう。そんな私を迎えに来たジュダルによって連れ戻されるまで、紅玉様との時間はずっと続くのであった。


13'0302
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