「んーー………」
「…………」



今日はジュダルの付き添いとして城内の図書館に来ている。何やら調べたい事があるらしく、朝からずっと引き籠っていた。どうやら私に関係する調べもののようで、先程から私に魔力を送ったり魔法を掛けたりしている。仕事しなくていいのかな…。
ただでさえジュダルが仕事を溜め込むからギリギリになっていつも書類の束に埋もれる羽目になるっていうのに。そんでもって銀行屋や夏黄文に文句を言われるのは私だってことを、ジュダルは知ってるのだろうか。



「ねぇ、仕事しないの?」
「いんだよ別に。こっちが優先だろ」



本に目線を落としたままジュダルはしれっと言う。そんな彼の周りには読み終えた文献が無造作に置かれていて、それは全部難しそうなものばかりである。普段は仕事もしないしだらしないジュダルが平気でこんなのを読んでいるのかと思うと、ちょっとだけ見直す。



「魔力を……の源とし、ルフを…に取り込むことで……を補う…」



ぶつぶつと何かを呟きながらページを捲る手がピタリと止まり、ジュダルの表情がふと真剣なものに変わった。何故か私が緊張してしまうその面持ちに居心地が悪くなりその辺に落ちてる魔導書を手に取る。
魔法はもともと興味があったのでつい読み耽ってしまったらしく、ジュダルに本を取り上げられてはっとする。咎めるような視線を送られ思わず目を反らしてしまいたい気持ちに駆られた。このジュダルの目は嫌いだ。



「魔法は駄目だからな」
「…読んでただけよ。魔法には興味があったから」
「使おうなんて思うなよ」
「うん……」



使えないの知ってるじゃん、とはさすがに言わなかった。

ジュダルは眉間の皺を解いて再び真剣な顔付きになって私と向き合う。



「お前の体質には前例があるみたいだ」
「私以外にもいたの?!」
「ああ。大々的には書かれてねーけど、間違いない」
「……それには何て?」
「体質についてだ。この本によると、名前は体内の魔力で生きていることになる。魔力については前に教えたから分かるな?」
「確か、ルフが産み出す純然たる力、だよね?」
「そうだ。名前の魔力量はその辺の魔導士より上だ。なのになんで魔法が使えないかっつーと、黒ルフを白に変える労力だとかルフが産み出す魔力自体が命の原動力として働いてるとかで本来魔法に必要な魔力が得られてない可能性がある。それに加えお前はマギじゃねーから決まった量の魔力しか使えない。つまり、通常であれば休むと回復する魔力もルフのいない名前には限界があるってことだ」



語られる本の内容をまるで他人事のように聞いていた。まさか知らない内に身体の中でそんなことが起こってるとは誰も思わないだろう。それに、過去にも私と同じ体質で苦しんでた人がいた事実に驚きを隠せない。



「…その人は、どうなったの?」
「少なくとも何らかの方法で助かってるのは確かだ。その何かが分かれば…」
「……!」



資料が足りなさすぎだ、と頭を抱えるジュダル。残念だがこれだけ調べても治す方法が分かったわけじゃない。ただ、まだ私にも希望は残されてるってことが分かっただけでも小さな朗報だった。疑問に思うことはたくさんあるけれど一つ一つ解決していければいい。



「ま、名前には俺がいるから安心しろよ!」
「うん。…迷惑掛けてごめんね?」
「んで謝んだよ」
「だって…、」
「あーいいっていいってそういうの。それより俺の部屋で桃でも食おうぜ!」
「…うん!」



司書の人に散らかした本の片付けを任せ図書館を後にする私たち。心なしか足取りはいつもよりほんの少しだけ軽い。そんな私の姿を見てジュダルは淡く微笑む。
柔らかな空気が二人を包み、彼の周りを飛ぶルフが小さく囀ずる。何羽か白いルフが混ざっていたけれど、やがてそれもすぐに黒へと染まっていきジュダルのルフの一部となった。



「ジュダル」
「んー?」
「いつもありがとう」
「………おう」



この先もこんな穏やかな時間が続くといい。そして願わくば笑顔ある未来が私たち二人に訪れますように。


13'0226
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