心に大きな穴が空いた虚無感と物足りなさが俺を支配する。原因はわかってる。
傍に名前がいないこと、名前を傷付けてしまったこと。これまでに味わったことのない罪悪感が鋭い刃となって胸のずっと奥の方を刺激する。自分の仕出かした事の重大さに気付いたのは、アイツの今にも泣き出しそうな顔を見た時だった。咄嗟に伸ばした手は振り払われてしまいそのまま部屋を飛び出していった。


あれから三週間経つが、名前の姿は一度も見ていない。

気付けば俺の足は名前の部屋へと向かっていた。あの日のことを謝りたくて、また傍にいてほしくて居てもたってもいられなかったのだ。名前の部屋は城の離れに位置していてあまり人気のない上に、用事が無ければ通る者もいないためいつも閑散としている。俺も随分と久しぶりに足を踏み入れた。あれだけ通っていた通路も初めて見る景色のように見えて、本当にこの先に名前がいるのか不安になり知らず知らずに歩幅が上がる。



「んだよ、これ」



やっと着いた名前の部屋の前で強力な結界が張られている光景に驚愕した。誰がこんなこと、



「!!まさか、」



いや、そのまさかだ。中から微かに感じるルフの波長。いつの間にか組織の奴らが動き出していたようである。魔導士を寄越すあたり、親父たちは自分の手を汚さずに名前を始末するつもりだろう。



「させるかよ!」



マギの俺にこんな結界破るのなんて朝飯前だ。雷魔法で扉ごと吹き飛ばせば結界も消滅する。崩れた瓦礫で巻き起こる砂埃の中で目を凝らすと、名前は案外すぐに見付かった。だが俺は、組織の上級魔導士が魔法で攻撃しているその先で光に包まれる名前の姿に目を見張った。
あれは間違いなくボルグだ。アイツに使えるはずがない。だって名前には魔法の知識も魔力もないんだから。でも、何故。

そんなことより、今は、



「サルグ・アルサーロス!!」



名前のボルグが消滅するのと俺が魔法を発動させるのはほぼ同時だった。少し俺のが早くなければ名前の身体は魔法で貫かれていた。
しかしボルグの不自然な消滅の仕方を見る限り名前の魔力は、もう……僅かだ。



「名前!!!!」



膝から崩れ落ちるその身体を咄嗟に抱えれば、その細さに息がつまった。虚ろに何かを探すように視線をさまよわせる名前の瞳に光は宿っていない。そして先ほどから口許は何かを呟き続けている。小さすぎる声に、耳を近付ける。

ジュダル、どこ、どこにいるの

名前は何度も何度も俺の名前を呼んだ。
ジュダル、どこ。ジュダル、ジュダル。
視界を奪われここにいるのが俺だと気付かないまま切ない声で俺を呼び続ける。

ここだ、ここにいる。ごめんな、名前。なぁ俺の声聞こえてんだろ無視すんなよ。名前、こっち見ろよ、なぁ!

聞こえているのかいないのか、相変わらず焦点の合わない目は虚空を見つめているが、何かを伝えようと唇だけは必死に動いていた。



「……ぁ………、…」
「俺が分かるか?!」
「……ね、………ダ、…ル」
「ああ、俺はここにいる」
「…………、………」
「!!!」



ゆっくりと閉じていく目蓋。抱えている身体から徐々に力が抜けていくのが嫌でも伝わった。慌ててルフを与えてもそれを受け取る力がもう残ってなくてただ魔力を消費しただけに終わる。どんなに強く揺さぶっても目を覚ましてはくれない。頼むからこれで最期みたいな顔すんなよ。
俺は名前がそうしたようにひたすら名前の名を呼び続けた。最後だけやけにハッキリと聞こえた言葉が頭の中で繰り返される。



『ジュダル、だいすき』


14'0929
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -