「………っ」 ドサリ。 突然頭が揺さぶられる感覚がして読んでいた魔導書を地面に落とす。 座っているにも関わらず激しい目眩に襲われるようになったのは、おそらく体調が著しく低下していっているからだろう。 自分でも分かるくらい痩せ細った身体。今日はまだいい方だが、ベッドから起き上がれない日だってある。半日以上寝ていることも少なくない。 そういえば、しばらく誰からもルフをもらっていない。食事だってまともに摂ったのはいつが最後だったか覚えていなかった。 そんな生活を二週間も続けてよく本を読む気力があるものだと自分でも驚く。 こんなボロボロの姿になっても凛麗はやはり何も言わなかった。凛麗だけに話した私の大きな決意と覚悟を受け止め、相変わらず世話を焼いてくれている。 どんな時でも優しく暖かい微笑みで私を見守るその姿が、記憶にあるはずのない母親を感じさせてくれる。私にとっての凛麗は、母のようであり友であり姉のような大切な存在。でも、私の決意は、そんな凛麗さえも傷付けてしまう。 「ごめんなさい、凛麗」 落としてしまった本を拾おうとベッドから立ち上がった時ドアが開く。凛麗が戻ってきたかと思いきや、入ってきたのは。 「…何の用」 「ルフ無き娘よ」 アル・サーメンの魔導士だった。 ただならぬ雰囲気に、ついに私を殺しに来たのかと他人事のように思う。今まで魔導士を連れてくることなど無かったアル・サーメンが、魔法で手っ取り早く殺そうというわけか。 「私を殺すの」 「察しがいいのね」 「今まで殺されなかったのが不思議なくらいだもの」 「役に立ってくれたら殺さずに済んだのに。いつまでも役立たずな貴女が悪いのよ?だからもう貴女は用済みなの。わかる?」 アル・サーメンの話し方は、まるで子供にいい聞かせるそれ。ただを捏ねているわけでもないのに酷い扱いである。 役立たず。用済み。 やっぱり何も言い返せなくて、私は俯く。 「貴女がいるとマギが仕事をしないのよ」 「ジュダル…」 彼女の背丈程ある杖の先が私に向けられる。 殺されるのに不思議と恐怖はない。 「貴女に恨みはないけれど、生きててもらったら我々には都合が悪いの。だから、ごめんなさいね」 構築される命令式に従いルフが次第にざわめき始める。逃げる力さえ残っていない私にはこの状況を打破する術はない。 助けてくれる人も、いない。 違う。 助けられてばかりで何も出来ない自分が嫌いだった。だから一人の力で生きてみようと思った。誰からもルフを与えられず、私だけの力で。それにはそれ相応の覚悟が必要で、私にとっては命を懸けなければならない重大なことだった。 私はルフがいないと生きられない。しかし生きるために必要なルフを集めることが出来ない。どうしても生きていくのに欠かせないルフが自分では集められないというのは、つまりそなまま死を待つだけであること。 そう。私は自らの死にに行っているようなものだ。 それでも私がこの決断を凛麗だけに打ち明け実効に移したのは、自分だけの力で生きらたらその時はジュダルを助けてあげたい。その願いのためだけにだった。 自己満足かもしれないけど、一人でも生きていけることを証明したかった。 「せめて楽に逝かせてあげる」 証明出来たら、今度こそ貴方を助けてあげたいって思ったの。 14'0823 |