シンドバッドさんに背中を押され、ちゃんとジュダルと話をしようと彼の部屋の前に立つ。さっきまでの強気はどこへやら、いざ扉を前にしてノックするのを躊躇ってしまう。
こんな風に気を使うのは初めてでやたらと緊張している自分がいた。もしジュダルに拒絶されたら…そう思うと足がすくんで動かない。
深呼吸を繰り返して心を落ち着かせる。大丈夫、大丈夫。おまじないみたく何度も繰り返しコンコン、と扉を叩いた。


………返事がない。いないのだろうか。もう一度、今度はもう少し強めにノックする。しかしそれでも返事がないのでドアノブに手をかけた。ジュダルが鍵を掛けないことを知っての手段だった。
予想通り鍵は空いていて簡単にドアは開いた。その先に、窓枠に腰掛けるジュダルの姿。私に気付いていないのかぼんやりと外を眺めている。



「ジュダル」



名前を呼ばれ初めて自分以外の存在に気付いたようで、身体がピクッと僅かに動いた。



「……何だよ」



私だと知っていて、敢えてこっちを見ないようにしている。だって近付いても顔を合わせようさえとしてくれないもの。態度で示すぐらいならいつもみたいに言葉にしてくれればこんな思いしなくて済むのに。



「あのね、ジュダルと話がしたくて」
「俺は話すことなんかねえよ」
「私にはあるから、聞いて」
「嫌だ」
「……ジュダル」



どんな時も私の話に耳を傾けてくれたジュダルはもういなくなってしまったの?バルバットで何があったか訊ねる事も許されないの?ただ顔が見たいだけなのに、それさえも叶わないの?



「何をそんなに思い悩んでるの?」
「………」
「私にも話せないこと?」
「お前には関係ない」
「ジュダルを助けたいと思う気持ちは迷惑なの?」
「俺は助けなんか求めてねぇ」
「嘘。だってジュダル、帰って来てからずっとツラそうだよ」



私には今ジュダルがどんな表情をしてるのか、伏せた顔に少し長い前髪がかかって隠れているから見ることは出来ない。どうすればジュダルは前みたいに私と接してくれるだろう。いつも私が元気を無くしている時、ジュダルはどうやって私を励ましてくれていただろう。



「ジュダルに元気がないとツライよ」
「…」
「ねぇ、ジュダルにしてあげられること、ある?私に出来ることなら何でもするから」



勇気を振り絞って話し合いに来たのにまともに会話すらさせてもらえなくて必死だった。頭で考えるよりも先に口から吐き出される言葉の数々は本当に言いたかったこととは別のものばかり。



「…………うぜぇ」
「え?」



小さく吐き出された言葉。低く唸るような声に背筋が凍る。



「ジュダル、」
「話したところでお前に何が出来んだよ。何の力も持たないお前が俺を助ける?ハッ、笑わせんなよ!ルフを与えなきゃすぐ死ぬような奴が、一人じゃ何も出来ないくせにマギの俺を助けたいだなんてよく言えたなァ!」



彼の言葉の一つ一つが刃となって心臓を大きく抉る。こんなに苦しい程の痛みを味わったことなど果たしてあっただろうか。



「そんな、酷いこと…」
「酷い?事実だろ」
「ただ私はジュダルを助けたくて」
「俺はお前に助けなんて求めてねぇし助けて欲しいとも思ってない。うぜーんだよ」
「助けたいと思う気持ちも、ジュダルには迷惑なの…?」



いつも迷惑かけてばかりだから少しでも力になりたいと思った。ジュダルの笑顔が大好きだから、曇らせたくないと思った。私の力で笑顔にしてあげたいって、思ったのに。

それさえも迷惑になるなら、



「………あぁ、迷惑だ」



ジュダルの側にいない方がいい。



「そ、か…。ごめんね。確かにそうだよね、私なんかの助けなんていらない、よね……」
「……」
「ジュダルの言う通り、わたしなんかには、出来る、ことなんて何一つ…ない、から、………っ」
「 っ、名前、」
「ごめ…、本当に、ごめんなさい…っ」



ハッとした様子のジュダルが手を伸ばす。その手から逃げるように部屋を飛び出した。

シンドバッドさん、私には無理です。私にジュダルを助けてあげられるような力なんてありませんでした。


その事実がどうしようもなく苦しかった。


14'0721
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