「へぇ〜。そんな事があったのねぇ」
「はい。初めて見た煌帝国の城下はとても素敵でした」



紅玉姫様のお部屋でいつものようにお茶をしながらこの前のことを話せば、紅玉様は頬を弛ませながら話を聞いて下さった。
次の日からジュダルはまた色んな国にお勤めに行っていてしばらく彼と会えていない。少し淋しく思うが、帰ってくる度に聞かせてくれる土産話を楽しみに待つのもなかなか楽しいものだ。姫には分からないと言いたげなお顔をされてしまったけれど、会いたいことに変わりはない。



「名前はジュダルちゃんとは何かないの?」
「何か、とは?」
「だからぁ!ジュダルちゃんに恋とかないのって聞いているのよぉ!」
「ジ、ジュダルと、こっ、恋?!」
「そうよぉ」



何を言い出すのかと思いきや姫様は何てことを仰るのか。私とジュダルが恋、だなんて、そんなの……。



「有り得ないです…」
「そうかしらぁ?私はお似合いだと思っているのだけど」
「ジュダルは私にとって家族みたいなものですし、ジュダルだって私を、」
「家族みたいに思ってる?そんなの分からないじゃない。少なくとも私にはジュダルちゃんがそう思ってるようには見えないわぁ」
「それは…紅覇様にも同じことを言われましたが…」
「お兄様に?」



姫様にもそう言われてしまうということはきっとジュダルは私を家族として見ていないということになるのだろう。
彼とは血を分けた家族ではないが、私は家族のように接してきたつもりだ。でもそれは私の一方通行だった事実に、少なからずショックを受けたのは確かで。



「私にはジュダルちゃんが名前に恋をしているように見えるわ」
「…はい?」
「ああ見えてジュダルちゃんってば分かりやすいのよぉ?」
「え、あの、姫?」



姫様は頬を桃色に染めて、恋だなんて羨ましいわ、とため息をつく。そんな彼女について行けず困惑する私。
ジュダルが私を好き?それこそ絶対にない。だってジュダルは、そんな素振りを一度も見せたことなんてないのだから。



「名前は恋をしたことはあるかしら?」
「いえ」
「実は私もないの。でも聞いた話によると、恋とはその人のことが頭から離れなかったり、会いたかったり、声が聞きたくなったりするんですって」
「会いたいと…思う」
「そう。それから、ずっとその人と一緒にいたいって思うのも恋なのよ」



ずっと、一緒に…。
ジュダルのことは好きだ。出来ればたくさんの時間をジュダルと過ごしていきたい。でもこれが恋かと問われると頷くことは出来なかった。私にはまだわからないのだ。恋というものが。



「あのね、名前には言わなきゃならないことがあるの」
「はい、何でしょうか 」
「私、近い内にバルバットに嫁ぐことが決まったの」
「……!」
「やっぱり貴女の占いはよく当たるわね」



淋しそうに、悲しそうに笑う紅玉様。
王家のご息女は政略結婚として嫁がされることは少なくないと聞いていたけれど、まさか姫様が。
突然すぎる報告に言葉を失う。とても喜ばしいことなのに、素直に喜べないのは、何でだろう。
姫様は私の手を取りそっと微笑む。



「私は恋は出来そうにないけれど、名前、貴女は違います。だから私の代わりに名前には好きな人と結ばれてほしい」
「紅玉、様」
「その相手がジュダルちゃんならそれ以上喜ばしいことはないわ」



そう言って紅玉様は私の頭を撫でた。
彼女がここを去ってしまうのは正直淋しい。私を友と呼んでくれた唯一のお方だから。だけど、心から幸せになってほしいって思ってる。だから私は彼女の幸せを願うことしか出来ない。



「ご結婚おめでとうございます。紅玉様」



彼女の未来に幸福が訪れますように。


13'1009
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