今日は一段とルフが綺麗に光る様子をじっと眺めていた。小さな鳥にも似たそれは、パタパタと羽をはためかせて空を飛んでいる。触れようにもその鳥は、指先に触れた途端消えてしまって叶わなかった。 「鳥って凄いと思わない?」 「?何だ急に」 「だって自由に空を飛べるんだよ!人間が一生かかってもなし得ないことを簡単にやってのけるんだよ?凄いなぁ」 誰でも一度は空を飛んでみたいと思うものだと思う。自由に飛び回るその様はさぞかし気持ちの良いことだろう。私がもし鳥だったなら、飼い主の目を盗んで檻から脱け出して、誰にも見つからない場所まで飛んで逃げていたかもしれない。でも残念ながら私は鳥ではないし、きっとこのまま鳥籠の中で死ぬまで生き続ける。飛ぶことも出来ない、哀れな鳥。 「空を飛びたいのか?」 「飛びたいけど、無理だよ鳥じゃないし」 「お前は飛ぶことを望んでるのか?」 「望ん、でるのかな…?」 「よし、じゃあちょっと来いよ!」 「え、あ、ちょっとジュダルっ」 何かを思い付いたように私の腕を掴むとそのまま部屋を連れ出された。 どこへ向かうのか。やけに楽しそうな横顔を私は静かに見つめた。 : : 「キャァァァアア!!」 「どうだ!楽しいだろ!」 「高いっ、高い!、怖いよジュダル!」 「んな真下見るから怖いんだろ。前見ろよ、前。ほら」 「み、見れない…っ」 私は今空飛ぶ絨毯に乗って空を飛ぶ不思議な体験をしている。どういった原理で動いているのか尋ねると、この絨毯はジュダルの魔力で自由自在に動かせる迷宮アイテムとのことだった。迷宮アイテムとは果たして。 それにしてもどういう風の吹き回しだろう。私を外に連れ出すなんて。 しかし絨毯は私の気も知らずに不安定に揺れながら勢いよく空高く上昇していく。ちょっと風に煽られるだけでバランスを崩して落ちてしまいそうで、ジュダルにしがみついて目をきつく閉じた。 「おい大人しくしてろって」 「ヤ…、離れないでっ」 「もっとこっち来いよ」 「ん」 ジュダルがいるから落ちることはまずないだろうけど、怖いものは怖い。高所に慣れていないから今にも泣きそうにだった。 けれど、急上昇していた感覚が突然なくなり、地上に戻ってきたのかと恐る恐る目を開けた。だが、私の目に映ったのは、 「うわぁ…!」 目の前に一杯に広がる鮮やかな町並みであった。この高さからでもよく見える程城下が栄えてるのが分かる。行き交う人々。商人と思われる人物や、広場で舞を披露する踊り子。初めて見る風景に胸が騒ぐのを感じた。 「これが煌の城下だ」 「凄い…」 「だろ?俺は空も飛べるんだぜ!さすがに鳥にはさせてやれれねぇけどな」 「ううん、凄いよジュダル!空も飛べて、こんな素敵な景色を見せてくれるなんて!」 きらきらと目を輝かせる私を見て、ジュダルは淡く微笑む。太陽に照らされる彼は、とても綺麗に見えた。 「いつかはお前に見せようと思ってた。煌帝国、…外の世界を」 「ジュダル…」 「名前が望むなら俺が全て叶えてやるって言ったことあったよな。…お前は何度も願ってたのに、遅くなって悪かった」 「あっ………」 「名前、お前が望むなら俺がなんだって叶えてやる。何がいい?」 ジュダルがあの時のことを言ってるんだとすぐ分かった。 あまりの嬉しさに泣きそうになるのを堪え、出来る限りの笑顔を浮かべた。 「ありがとう!凄く嬉しい!」 きっと私は、ジュダルが見せてくれたこの景色を一生忘れない。そして、ジュダルが私を外に連れ出してくれた今日という日を胸に、この先を生きていく。 13'0530 |