すっかり風邪も完治した頃にジュダルから聞いた話によると、私が風邪で三日三晩眠り続けている間紅覇様付きの従者の方々が私に魔力を分け与えて下さっていたらしい。彼女たちがいなければ私は死んでいたのだと言う。お会いする機会はそれなりにあったが、話したことはほぼない赤の他人である私のためにそこまでして頂いたのだ。きちんと礼を言わなくては。

そう思い紅覇様を訪ねてみたら、紅覇様は珍しく一人で執務室にいらっしゃり、ソファーに寝そべってフルーツを召し上がっていた。私の姿を視界にとらえるとニコリと笑って向かいのソファに座るよう促す。ふかふかのソファに腰を下ろし、目の前の紅覇様を見据えた。



「お久しぶりです紅覇様」
「久しぶり〜。名前が来るなんて珍しいね。ジュダルくんにパシられたの〜?」
「いえ、本日こちらには私事で参りました」
「へえ?」



意外だと言わんばかりに目を開く紅覇様。
確かに私が彼の執務室に来る用事と言ったらジュダルに遣わされた時ぐらいだ。それ以外にここへ来る機会などほとんどないのだ。



「はい。ジュダルから聞きました。私が風邪を拗らせた時、従者様が私に魔力を送って下さった、と」
「ああそれね〜。そう言えばもう平気なの?」
「ええ。お陰様ですっかり良くなりました。皆様方がいらっしゃらなければ私はきっとここには居なかったでしょう。本当に感謝しております。ありがとうございました」
「わざわざそれだけを言いに来たの?お前は本当に律儀だね」



紅覇様は、あの子たちが聞いたら泣いて喜ぶだろうね、と今は席を外している従者三人の姿を遠くに見ていた。きっと許可を下さったのは、彼女たちの力が何かの役に立てばいいと思ってのことだろう。紅覇様はそんなお人だ。



「余程名前が大事なんだね〜、ジュダルくんは」
「私は彼にとって家族みたいなものですから」
「家族、ね…」



彼に大事にされている自覚はある。それは、いつでも私を優先してくれることや、仕草や言葉の節々から感じることが出来る。
紅覇様は最後のフルーツを口に放り込んで咀嚼し、指を綺麗に拭き取ると身体を起こして座り直した。



「僕はそれだけじゃないと思うけど」
「…?」
「んー。これを僕が言っていいのかは分からないけど、ジュダルくんは家族だからってその人の命に価値を見出だすような人じゃないよお」



つまり、彼が私を大切にする理由が他にあるということなのだろうか。
紅覇様の、すべてを分かりきった目に戸惑う私の姿が映る。



「じゃあ、どうしてジュダルくんは名前を大切にしてると思う?」
「……分かりません」
「うん、今はそれでいいよ。きっとお前にも僕の言った意味が分かる日が来るから」
「…はい」
「そんな落ち込まないでよ〜?名前にとって良いことなんだからさ〜」



こんな名前を見たジュダルくんに怒られるの嫌だしぃ?と、困った様子とは裏腹に笑顔を携え立ち上がり隣にやって来た紅覇様は、私の頭を撫でた。


私には紅覇様の仰る言葉の意味がイマイチ理解出来なかった。


13'0402
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