名前は風邪を滅多に引かない。と言うよりは、引かないように細心の注意を払っている、と言った方が正しいだろう。何故なら、過去に一度風邪を引いて死にかけた事があったからだ。 普段名前の体力は魔力の減りに比例しているが、体調不良による免疫力の低下で魔力消費の調節が行えなくなり通常以上の魔力を消費してしまっている。でなければこれ程までに衰弱したりしない。 名前の呼吸は未だ落ち着かず、ひどい寒気に襲われているのか身体が小刻みに震えている。拭っても拭っても汗は止まらず、衣服も寝汗でびしょ濡れだった。 薬を飲ませようにも目を覚まさないことには何も始まらない。それまでの繋ぎで魔力を与え続けるのもマギでなければ不可能なこと。だが長丁場が続けばさすがの俺でも…。 「ジュダルちゃん、平気?ずっと魔力を送り続けているけど」 「…これくらい大したことねぇよ」 「姫君。神官殿もそう仰ってることですので後は任せてそろそろ休まれては?」 「嫌よぉ。私だって名前が心配だもの。それにジュダルちゃんもさっきより顔色が悪いわぁ」 「……」 正直なところ休まず魔力を使用するのは体力の消耗は激しく、限界はすぐそこまで来ていた。あれから何時間も続けているが、名前は目を覚ます気配はない。こうなったら最後の手段を使うしかない、か。 「おい紅玉、今すぐ紅覇の従者を呼んでこい。三人全員だ。理由を話せばアイツなら貸してくれるだろう」 「分かったわ。行くわよ、夏黄文」 「はい、姫君」 慌ただしく部屋を飛び出した二人を見ることなく俺は名前の寝るベッドに乗った。名前を抱き上げ胡座をかいた膝の上にゆっくりと下ろす。ぐったりと力無く投げ出された上半身を腕で支えてやると、温もりを求めるかのように胸に擦り寄ってきた。 「おい、薬と水取れ」 「は、はい!」 女官から受け取った水と薬をそのまま口に含み、名前の頬にてのひらを添えて薄く開いた唇に自分のそれを押し付ける。側で控える女官の、驚きに息を飲む音が聞こえた。こんな形で口付けをすることになるとは思わなかったが、今は手段を選んでる場合ではない。 舌で名前の口を抉じ開け薬を移してやり、喉が鳴ったのを確認するとゆっくりと唇を放した。端からこぼれた水を指で拭い、震えの収まらない細く小さな身体を抱き締める。 お前をこんなところで死なせたりなんかしない。必ず助けてやるから、だからお前も、名前も耐えてくれ。 俺はお前を 失いたくないんだ。 13'0316 |