最近どうも仕事する気が起きなくてサボることが増えた。って言っても重要さの分からない紙っぺらと向き合うのは性に合わねーし嫌いだから元々サボってばっかだけど。文官が泣きながら探しに来ることも多々あるが、最近は回数も減った。それもこれも全て名前が手伝ってくれてるからだろう。無理するなとは言ってあるけどアイツのことだ。どーせ反対を押しきってまで仕事するんだろうな。



「……………」



何も知らないのは怖いと泣きじゃく る名前の姿を見た時、俺はどうすればいいのか分からなかった。出来れば抱えてる不安を取り除いてやりたいし、早く安心させてやりたい。だが俺自身核心に触れられていない分、無責任なことは言わないでやりたかった。どうすれば名前が喜ぶのか、泣かないで済むのか必死に考えても何も浮かばない。

時間があれば本を読んで解決策を探してはいるがそう簡単に見つかるものでもなかった。もし仮に何かしらの改善方法があり名前が普通の生活を送れるようになったとしたら、親父たちはアイツの防大な魔力を狙って何としてでも名前を堕転させようとするだろう。
堕転だけは絶対にさせたくない。名前には悪に染まらない道を歩んでほしい。だから組織には知られたくなかった。



「どーすっかなぁ」



城の屋根に寝転ぶ。太陽はとっくに沈んで月が昇っていた。
そろそろ飯の時間も終わっちまうなー。
と、他のことを考えても片隅には名前の顔がちらついていて。柄にもなく考え事に耽っていると、下からバタバタと駆け回る音が聞こえてきて、耳を済ますと俺を呼んでいる声がした。
覗いてみれば何度も見掛けたことがある名前付きの女官がいるではないか。ただならぬ様子に胸騒ぎがして屋根から飛び降りた。



「ジュダル様、ジュダル様!?」
「ここにいるようるせぇな」
「あっ、ここに居られたのですね!」
「何事だ」
「名前様が、名前様がっ」
「名前が何だよ」



名前、という名前に嫌な予感が更に膨れ上がってゆく。
そして俺は、次に放たれた女官の言葉に、後頭部を鈍器で殴られた感覚に陥ることとなる。



「名前様が倒れました!!」








「名前!!」
「ジュダルちゃんっ、」



乱雑にドアを開けるとアル・サーメンの魔導士たちの何人かがこっちを振り向いた。話を聞いて駆け付けたであろう紅玉と従者の夏黄文も心配そうな顔で俺を見る。
ベッドには名前が寝かされていて、その顔色はルフが減っている時と比べより一層に青い。頬は微かに赤く色付き額に少量の汗が滲んでるのを見ると、体調不良から風邪を拗らせたのが窺えた。



「後は俺が看るから親父たちは出てってくれ」
「だが娘の様子、ただ事じゃないぞ」
「いいから出てけよ。俺が治す」



この場に親父たちに居られるのは少しばかり都合が悪く、無理矢理追い出す。出ていくのを確認して名前の傍に近寄った。不規則な荒い呼吸を繰り返し、苦しそうな吐息が時折漏れている。



「名前、前に風邪を引いた時もこんなでしたわね。大丈夫なの…?」
「俺がルフを与えてやってる限りはな」
「そう…」
「おい。どうしてこんな状態になるまで放っておいた」



鋭さが増した俺の言葉に、女官の肩が跳ねる。未だに動揺しているのか視線をさまよわせた後に胸の前で両手をぎゅっと握り締め、ここ数日の名前の様子を語り始めた。
まともに食事を摂っていなかったことや、いつも以上に仕事をしていたこと。睡眠不足で顔色が悪かったこと全てを。



「それでその、わっ、私、何度もお休みするよう名前様に声をお掛けしたのですが…でも、『終わらせたい書類がある』と、頑なに仰られるものですから…。あのっ、もっ、申し訳ありませんでした!!」



泣きそうになりながらも頭を下げる女官を怒鳴りつけることも出来たが俺にそうさせることを拒ませたのは、必ずしも全ての責任が女官にあるわけではないからだ。気付けなかった俺や、こうなるまで働き続けた名前自身にも非はある。



「………」
「お咎めは…?」
「んなもんねーよ。いいから早く水と布持ってこい。あと薬な」
「は、はいっ!只今!」



そうじゃなくとも、女官を傷付けることより名前が傷付いてしまう方が俺は堪らなく恐ろしい。
怒られたのは自分のせいだと、昔からそうやって自分を責める奴だから。



「……」


握り締めた名前の手は、死人のように冷たかった。


13'0316
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