俺には好きな人かいる。同じクラスの子で、可愛いけど俺のタイプではないし、とりわけ目立っているわけでもない。言ってしまえばどこにでもいるような普通の女の子。そう、普通なのだ。そんな彼女を気付くと目で追ってる自分がいて、これが恋だと理解するのにあまり時間は掛からなかった。 「あれ、黄瀬くんまだいたんだ」 人のいなくなった教室でボーッとしていたら、突然教室のドアが開いて入ってきた人物にドキリと心臓が跳ねたのが分かった。 「っ名字さん、こそどうしたんスか?」 「ゴミ捨てに行ってたの。ほら、今日の日直当番って私だからさ」 ゴミ箱を定位置に戻した名字さんは「せっかくの午前授業だったのに、運が悪いよね」と笑いながら言った。近くで見る彼女の笑顔に、顔に熱が集中するのを感じて慌てて横を向く。 そんな俺を気にする様子もなく名字さんは自分の席に座ると日誌を書き始めた。 何か話し掛けた方がいいのか試行錯誤するがうまく話題が見つからず、沈黙が続く中、それを破ったのは意外にも彼女の方だった。 「黄瀬くんさー、」 日誌に視線を落としたままの名字さん。艶のある黒髪を耳にかける仕草がやけに色っぽく見える。どうしてなのか俺は彼女の表情や動作の一つ一つを直視することが出来ず、またもや顔を背けてしまった。 「おととい、隣のクラスの女の子に告白されてたでしょ」 「え、何で知って、」 「さぁ。何でだと思う?」 思わず名字さんを振り返る。いつの間にか顔を上げていた名字さんと視線が交差した。 彼女は相変わらず笑みを浮かべている。 「…見てた、んスか?」 「半分正解、ってとこかな」 「半分?」 「そう、半分。じゃあ何で私は体育館裏での出来事を知ってたと思う?」 名字さんはイスから立ち上がって俺の前までやってくると腕を後ろで組んで首を傾げた。今までにない程近い距離に鼓動はすぐ速くなった。 「質問変えるね。じゃあ、どうして私はそれが気になったんでしょうか」 「わからない、っス」 「ふふ、そっか。じゃあ教えてあげる」 左頬に小さな、けれど細く綺麗な手が添えられる。そして右頬に柔らかな感触。 数秒経って、キスされたことに気付いた。途端、急激に熱くなる頬。離れた名字さんも、さっきの余裕はどこへやら。耳まで真っ赤だった。 「いいい今の!!」 「すっ、好きでもない人の告白なんて気にならないもの!」 「え、じゃあ…」 「黄瀬くんが!な、何も、してこないから…」 それはつまり、俺が彼女を見ていることに気付いてたことを物語っていて。 「ええ!気付いてたんスか?!」 「当たり前でしょ!あんなに毎日見られたら嫌でも気付くし!だって!」 そして顔を真っ赤にしながら放った名前さんの一言に、俺はどうしようもないくらい表情が弛んでしまったのだった。 「私だってずっと見てたんだから!」 つまり両想い 「あ、や…今のは…っ!」 「それって、自惚れてもいいってことっスよね?」 「…………ハイ」 12'0918 |