「名前!好きだ!」
「死んでください」

今しがた終えた竹簡をぶん投げれば、それは額に見事にぶち当たる。距離が近いためあまり威力はなかった。非常に残念だ。

「お戯れはよしてくださいませんか、馬超殿。私も暇ではないのです」
「戯れなどではない!」
「…そんなに私のことが好きなのですか」

嘆息してからそう訊ねると、途端に馬超はぱあっと瞳を輝かせ勿論だ!と握りこぶしでそう言ってきた。

「そうですか。では私の為に右目潰せますか」
「……は、」

ぽかんと口を開け固まるその様子はなかなか滑稽であった。くすり、挑発するように笑む。

「ふふ、その程度で私を娶るだなんて、三百光年早いですわよ、馬超殿」

そう告げてまだ呆けている馬超を部屋から追い出そうと引っ張れば、逆の方向に再び引かれ歩が止まる。内心ちっと舌を打ち眉を潜める。さすがに失礼なので舌打ちは心中で留めたが、眉間の皺までは無理だった。ああ苛々する。

「…まだ何か?」
「名前、好きだ」

まだ懲りてないのか畜生馬超殿め。いや、こんなやつはもう馬超で十分だ、馬超コノヤロウだ。略してバチコだ。

「俺は本気だ」
「…っいい加減に」

してください、と続けようとした言葉は声にはならず、ただ息がこぼされるだけだった。今まで見たこともないくらい真剣な表情に、追い出そうと引っ張っていた腕から力が抜ける。それを見計らったかのように肩を押され、背中が扉にぶつかる。横に置かれた逞しい腕と真剣な眼差しと近すぎる距離に、眩暈がした。

「名前、先程自分の為に右目を潰せるかと聞いたな」
「…それが、何か」
「右目どころじゃないぞ。俺の身も、心も、全てをお前に捧げる覚悟が俺にはある」

真っ直ぐに此方を見据える瞳に吸い込まれそうな気がしたが、逸らそうにも逸らすことができない。顔に熱が集まってくるのを感じてきゅっと服の裾を握った。

「名前」
「…は、い」
「好きだ」

もう何度目かもわからないその言葉に、今まで聞き流してこれた筈なのに心臓は馬鹿みたいに高鳴る。絶対に顔は真っ赤だろう。こくんと小さく頷けば、馬超は嬉しそうに表情を綻ばせる。煩いだけだと思ったのに、こんなやさしい表情ができるなんて、こんなの反則だ。真剣な眼差し、やさしい表情、今日は知らない馬超ばかり。
耳元でもう一度好きだと低く囁かれて、心臓を優しく掻きむしられるような、ざわざわとした感覚に襲われる。ちくしょー、完敗だぁー!

みごとにかじりとられたぼくのこころ
(死にそうだ…)
(…じゃあ死ねば)
(どうせなら名前の腕の中で…)
(ちょ、ちょっと抱きつかないでくださいよ!)


----------
ツンツンなおんなのこ大好き!しかしこれはツンツンなのだろうか。まあいいさツンツンなおんなのこも馬超も大好き!はいおっけい!
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -