「私に触れないで」

そうやって手を払い除ければ、彼は傷ついた表情をするものだから、何処かがちくりと痛むのだ。そんな顔をさせたい訳ではないのに。ああ、だがそんな顔をさせたのは、紛れもなく私なのだ。重い足を動かして立ち去ろうとすればぐいと腕を掴まれる。
婚姻の決まってお忙しい方がわたしなどに構う時間などおありなのですか。そんな嫌味すらも出なかった。振り払おうにも先程の彼の表情がそうさせぬ。睨みつけようとした目は俯き床の目を捉え、嫌味を言おうとした口からは小さく息が吐き出されるだけであった。

「離して、」
「離しません」
「……ッ」
「私が何かしましたか」
「、別に…なにも、」
「では何故私を避けるのですか」

喉が張りつくような感覚に口を閉ざす。身体中の感覚が麻痺したかのような錯覚にとらわれた。ただ、掴まれた腕がひどく痛む。ぎゅっと唇を噛み締めれば、此方を見てくださいとすがるような声音で言われ、のろのろと顔を上げた。それでも目は見れず首もとあたりを見つめる。
なんて顔をしてるんですか。彼がぐにゃりと顔を歪めてそう言ってきた。それは此方の台詞だと返せば、彼の手がそっと頬に伸ばされる。触れられたところがちり、と熱を持つ。その手は思っていたより冷たく、そして悲しいくらいに優しかった。

「泣きそうな顔を、しています」

そう言われてから初めて見た彼の瞳には、ひどく情けない顔をした自分がいた。

こんにちはわたしの青い星、胃のなかで脅えている気分はいかが
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -