「おい」たったそれだけだった。ひょっとしてスクロールドッキリってやつだろうかと思ったが改行すらもされていない、いやそもそもあの男がそんな回りくどいことをする筈がないのだ。回りくどいのはあの嫌味ばかりぽんぽん吐き出す口だけで十分である。いやでもあの男の嫌味は回りくどくもあるが直球でもある。意味がわからないと途方に暮れていれば、再び震え出す携帯。予想通りメールと同じ人物からで、ただ今度は着信である。

「この私を無視とは覚悟はできているのか」
「何の用だ英才教育」

開口一番そう言ってのけた鍾会に仕方なく返事をすれば私はそんな名ではないと怒り出す。全く厄介なやつだ。大体「おい」とだけ来ても返しようがないではないか。返事をしてほしいならそれ相応の文面にしていただきたいと思う私はきっと間違ってはいない。

「大体この私がわざわざ電話してやっているのだ、ありがたく…聞いているのか、名前!」
「うん、さっさと用件言ってくんない?ねむいんだけど」

大体夜の10時に電話してくるなんて恋人同士じゃあるまいし非常識にも程がある。本当に英才教育を受けてるのかと聞いてやりたいが面倒なのでやめておく。明日はゴールデンサンデーで用事もないから何時に起きようが問題ないのだが、これ以上寝る時間を削られてはたまったものではない。睡眠を妨害されるのが一番嫌いな私はさっさと用件を聞いてこの男との関わりを絶とうと先を促す。すると急に先ほどの勢いは消え吃りだした。何が起こった。

「大丈夫?ちょっと落ち着いたら?ほら、深呼吸。深呼吸できる?」
「あ、当たり前だ!この私にできないことなど…私は英才教育を受けているのだ!選ばれた、」
「あーはいはい、とにかく落ち着いてよ」

大体英才教育を受けようが受けまいが深呼吸はできる。全くプライドの高い男だ。顔はいいのに勿体無い。間違ってもこの男にきゅんとくることはないだろう。ここまで自分を誇張する必要性が何処に落ちているというのか。

「…こ、コアラは好きか」
「 は?まあ、すきだけど…それが?」

漸く落ち着いたと思ったら、どうしたことだろうか。訳がわからず考えあぐねていると、鍾会が焦れたように言葉を重ねた。

「だから、生まれただろう!」
「何が」
「コアラにきまっている!」

知るかと言おうとして、そういえばと思い返す。わりかし近くの動物園でコアラの赤ちゃんが生まれただとか地元のニュースでやってたっけ。関索と見に行くと鮑三娘が嬉しそうに話していたのをよく覚えている。

「で、なに?」
「その、明日行こうと思ってだな、」
「そう、行ってらっしゃい」

そう告げ電話を切ろうとすれば、待てと静止の声に再び耳へ携帯を当てる。

「なんなわけ?」
「明日の10時に駅前で待ち合わせだ!遅刻は許さん!」
「はあ?あんたが一人で行きゃあ、」
「私は名前と行きたいんだ!」
「えっ」
「あっ」

思いがけない言葉に問い返そうとすればぶつり、そこで通話が途切れた。おいおいそりゃないだろうとため息を吐いた。まったく、私と行きたいなら素直にそう言えばいいのに。そう悪態を吐きつつも明日着る服を探そうと箪笥を漁っているあたり、私も満更ではないらしい。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -