「これは司馬懿殿、相変わらず顔色が悪いですね」

今日も今日とて忙しい。足早に廊下を歩いていれば、最近何かと突っかかってくる女と出会った。顔を合わせる度に同じことを言ってくる女で、今日もまた同じことを言ってきたものだから、相変わらず腹立たしいことこの上ないと眉を潜めれば、おお怖いと大仰に肩をすくめた。実に不愉快だ。

「貴様も馬鹿のひとつ覚えのように同じことばかりを言うな」
「では顔が悪い」
「なぜ色をとった!それでは私が不細工みたいではないか!」

うるさいですよ。わざとらしく耳を塞ぐ名前に深く吐き出した溜め息は口に突っ込まれた何かにより半ばで遮られた。ふふんと笑った名前は、注意散漫ですよと桃まんを持った手をひらひらさせた。

「疲れたときは甘いものですよ。司馬懿殿、少しは休まれたほうがいいんじゃないですか」
「貴様が私の分までやるというのならそうしてやろう」

そりゃ勘弁。はははと快活な笑い声が不愉快で眉間に皺が寄る。

「顔色悪い上に眉間に皺寄っちゃあ化け物ですよ、化け物」

だから友達いないんですね。神妙な顔つきで言うものだから余計に苛々する。余計なお世話だと吐き捨てれば全然思ってもいないような声音ですいませんねなんて言ってきたものだから桃まんを投げつけてやった。お前もう還れよ。

「これでも一応心配してるんですけどねえ」

何を馬鹿なことをと呆れたように溜め息を吐いたものの、予想外の言葉に少しの動揺を感じたのも確かだ。

「ふ、ふん。何を企んでいる」
「失礼ですねえ。お慕いしている司馬懿殿だからこそですよ」
「なっ…ば、馬鹿め!そのようなことを軽々しく言うな!」
「…眉間の皺、とれましたね」

いつものしかめっ面よりずっと良いですよと楽しそうに笑う名前に動揺を隠すように下らんと吐き捨て歩き出せば、後ろからくすくすと笑い声が聞こえたものだから再び眉間には皺が刻まれた。まったく扱いづらい女だ。だが、あれほど不愉快に感じていた笑い声を自分の耳はすんなりと受け入れているらしかった。


普通の女の子になんてならないから見破れる嘘であいしてよ
110506 アンケートより
司馬懿より一枚上手なおんなのこ
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