むっかっつっくううう!!
廊下をどたどたと歩きながら先程の会話を反芻する。

「少しは使ってあげなければ、一応ついているその小さな頭が可哀想ですよ」

こっのっやっろううう!!
癖のある髪と見下したようなあの視線を思い出すだけで身体中の臓器が怒りに震えだす気さえした。

「廊下を物音をたてて歩くとは品のない…浅学が滲んでいますよ。失礼ですが本当に女性ですか」

脳内で蔓延っていた奴の登場とその言葉に私のあまり高いとは言えない沸点は限界にまで達していた。この男からまさか失礼という言葉が飛び出るとは思わなかった。こいつも失礼という言葉を知っているなら自分の態度を改めて欲しい。というか最早お前の存在が失礼だと言ってやりたい。

「鍾会くん、最期に言い残すことはある?」
「私は目玉焼きはソース派です」

何故そうなるのか皆目理解できない。幼い頃から英才教育を受けたとかいうこの男はどうやら頭のねじを何処かへやったらしい。私のことを知れて嬉しいでしょうなんて言ってくるやつは頭が沸いているとしか思えない。ちなみに私は醤油派だ。

「ぜんっぜん嬉しくなんかないね!ていうか目玉焼きは醤油でしょ醤油!」
「目玉焼きはソースに決まっています。まぁ貴方程度ではソースの良さはわからないでしょうね」
「なんだと!」

醤油だソースだと言い争う声は廊下にぎゃんぎゃんと響いた。醤油には大豆がとかソースにはブルドッグがとか、不毛な争いが続く廊下は放課後の化学室前ということもあり無人である。

「そもそも、このくらいのことで腹をたてるとは、年嵩の者とは思えませんね。こんな先輩を持って私は恥ずかしい」
「ガキだって言いたいわけ!?じゃあそんな私の言葉にいちいち付き合ってる鍾会くんだってガキってことだよね!」

私だってこんな後輩持って恥ずかしいと言えば、鍾会くんは顔を真っ赤にしてわなわなと震えだした。まったくプライドばかり高い男は嫌になる。

「恥ずかしいとはなんですか、やめてください!存在が恥ずかしい貴方に恥ずかしいと言われては人間お仕舞いです!」

ひどい言い草である。き、と睨みつければ、奴は勝ち誇ったように笑ってきた。視界がぼやけてきたのが悔しくて、鍾会くんなんて大嫌いだと半ば自棄に叫べば、空気が凍った気がした。

「、え」
「鍾会くんなんて嫌い!」
「…今、なんと?」
「き!ら!い!」

再び鍾会くんは震えだしたけど、今度は顔は赤くなかったので、怒っているわけではないのかなと頭の隅っこでぽつりと考えた。

「なにトイレで用足したら紙なかったみたいな顔してんの」

嫌味にも反応しないとなるとさすがに不安になって、そっと顔を覗き込む。

「…もしかして、ショックだった、とか?」
「、そんなわけないでしょう」
「でもさ、」

泣きそうな顔してるよ。ぐにゃりと顔を歪めた鍾会はぐいと腕を引っ張ってきた。突然のことに対応しきれなかった名前の体はすっぽりと鍾会におさまる。

「見ましたね、責任をとってください」
「ななな何責任て」
「…仕方がないので貴方を私の彼女にしてあげてもいいです」

なにその上から目線、むかつく。鍾会くんのばかやろう。
どういう風の吹き回しとくぐもった声で問えば、貴方なら士季と呼ぶことを特別に許しますなんて言ってきたものだから思い切り足を踏みつけてやった。隙をついて腕から逃れれば、すかさず文句を言ってくる鍾会に早く帰るよとすたすたと歩き出す。そのあとにつけ足したはじめて呼んだ名前は、案外すんなりと口から零れた。


二文字の呪文を口の中で育成中
我が儘で傲慢で欠点だらけのあなたが、すきよ

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ちなみにしいこは醤油派です。最近醤油マヨが気になる。今度試してみようかと考え中。
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