お願いだからもう放っておいて。そう言って突き放せたらどんなにいいだろう。泣きそうに歪ませた顔で私の手を握るその手は暖かく、痛いくらいにやさしかった。揺れる瞳のその心の奥は冷えきっていて、今すぐ彼の心を取り出してあたためなければという衝動にかられた。
「名前、私は、」
そこで陸遜は言葉を詰まらせた。そう、それでいい。それ以上は言わなくていいの。
「…陸遜、幸せにね」
精一杯の微笑みで告げた。どうか、最期に見せる笑顔が綺麗にうつってくれればいいと願って。くしゃりと顔を歪めた彼は、なんて顔をしてるんですかと私の頬に手を当てて言ってくる。視界いっぱいにまで近づいてくる彼の瞳には、ひどく情けない顔をした自分がいて、私はぎゅっと瞳をとじた。
こんな終わりを装う癖にきみのキバはやさしい
なにもかもを塗り替えてしまうようなあなたのキスが世界でいちばん嫌いです
110501